資格・就職
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- アシスタントディレクター
山田 瑞貴(2012年度・健康スポーツ学専攻卒)
■TV番組制作会社勤務
体育大生はAD向き?
山田さんは番組制作会社でアシスタントディレクター(AD)として働いています。働いて2年目、仕事は忙しく厳しくても、TV業界に来て良かったと思っているようです。
<2014.06収録>
「アシスタントディレクター」ってどんな仕事?
まぁ簡単に言うと"何でも屋"ですね。仕事内容は、自分が担当する番組によって変わってきます。私はBS日テレで、「おぎやはぎの愛車遍歴」という番組を担当しています。"おぎやはぎ"という2人組の芸人が、ゲストのタレントや自動車評論家と、タレントが今まで乗ってきたクルマについて語り合う番組です。
入社した時に「キミ、コレね。」みたいな感じで担当することになりました。クルマが嫌いな人だったら相当にイヤな仕事だと思いますよ(笑)。だって、朝から晩までクルマ漬けですから。おかげでクルマにはだいぶん詳しくなりました。会社は他に美術番組とかもやっているんですけど、私は美術とか本当にわからないのでそっちだったらダメだったかもしれません。
会社は?
番組制作会社で、私は入社2年目です。社員数は、TV局に出向している人がいるので正確にはわからないんですが、たぶん50人ぐらいじゃないかな? TV局から請けて番組を作っていて、うちは基本的に日テレ系です。クルマ番組の他に、朝のニュースや情報番組、美術番組なども作っています。他にもイレギュラーで2時間ドラマや特番などもやっています。
具体的な仕事の内容を教えてください。
私の担当しているクルマ番組はADが3人います。ひとり3シャープ(3回)分の番組を持っていて、それぞれ打ち合わせ段階、ロケ間近、編集段階という風に回していきます。
番組制作のスタッフは、ディレクターやプロデューサー、放送作家、カメラマンなどがいます。プロデューサーは予算管理やタレントと交渉をします。ディレクターは出演者にキュー出しをしたりカメラマンやADに指示を出して収録を回していく現場の責任者です。TV局からもプロデューサー(局P)が制作打合せに来たり収録に立ち会います。
制作の流れでいくと、うちの番組ではまず最初にゲストが決まります。それでADはゲストが今まで乗ってきたクルマ(初めて乗ったクルマとか、何歳ぐらいの時に何に乗っていたとか...)を調べて、打ち合わせ用の資料を作ります。それをもとにタレントと打ち合わせをして番組の構成が決まっていきます。
番組に登場させるクルマが決まったら、ADはそれと全く同じタイプの車を収録現場に持って来てもらう手配をします。珍しい車やもう走ってない車の時は探すのが大変です。収録は教習所や自動車大学校などを借りてやっていて、そのロケ場所の手配もします。
あと、ロケに必要な備品の準備をしたり、ロケバスやお弁当の手配をしたり、フリップを発注したり、カンペを作ったり...。
カンペって何?
台本をB4サイズにしてスケッチブックに貼ったものです。収録の時にディレクターがカメラの下に持ってキュー出しをします。私も何回かキュー出しはしたことがあります。
収録では出演者がクルマに乗り込んで、「このクルマに乗っている時にどうした、こうした...、」とか語り合うので、クルマの中にカメラを仕込んだり細々としたセッティングがあります。台本を読んで「ここでエンジンの話をしてるのでこのパーツを撮って下さい。」とか、カメラマンに指示しながら、たった何分のカットを何時間もかけて撮っています。
一度、サーキット場で撮った時に、スポンサーのライバルメーカーの看板がたくさんあって、それを全部巨大なビニールシートで隠すために木に登ったりして、そんな時は「もう自分は何をやってんだろう?」と思いました。
収録後は、4台のカメラの映像を一つに合わせて順番に並べた粗データを、ディレクターが1時間の尺に納めるように編集していきます。ADは編集に必要な画像や映像を、メーカーのサイトで探したり中古車屋さんから借りたりします。
編集が終わると最後にテロップ入れです。公道でカメラを付けて走るのはダメなので「ここは私有地です。」っていうことわりを入れたり、最近は視聴者からすぐ指摘がくるので何でもテロップでフォローします。テロップ入れは、朝からやって終わるのはいつも深夜になります。その間ADはクルマの名前や年代、スペックが間違っていないか、映像をひたすらチェックします。
「1時間の番組なのにいったい何十時間かけるんだろう...。」と思います。ADの仕事は、台本の裏取りやリサーチなど意外とデスクワークが多いんですよ。テロップはADも責任を持たされます。原稿の段階からチェックしていても間違うこともあり、そうするとディレクターから「どうしてこういう事になったんだ!?」ってこっぴどく怒られます。
仕事はどうやって覚えていったのですか?
入社して4月いっぱいは、先輩ADが技術的なことを教えてくれました。それが超スパルタでずっと怒鳴っていてすごい恐かったです。メモを取る時間も与えてくれないからすごい勢いでメモって、同じ事は2度と聞けませんでした。ちゃんと出来るようになるまで待ってくれずに、5月の頭にはひとりで現場に放り出されてディレクターに付き、「ここ違うじゃないか!」って怒られながら仕事を覚えました。
ディレクターになるにはどれぐらいかかるの?
5年くらいかな。番組によってディレクターになれるスピードも違って、私は今1時間番組に付いていますけど、5分番組ならディレクターになるのも早いみたいです。でも5分番組のディレクターになっても1時間番組が作れるとは限らないから、それがいいということでもないんですけど。
生放送になるとまたやることも全然違いますし、その辺は番組次第ですね。どれだけ自分の引き出しを増やせるかだと思います。ディレクターになると責任も重くなるので大変です。プロデューサーになったらもっと責任の比重が上がってきますけれど...。
働いてみてどうですか?
後悔はしていません。いやむしろ、こっちで全然良かったです。もともと自分はOL的なキャラじゃないし、堅い仕事は向かないと思っていたので。ADは何でもやるのでやっておいて無駄じゃないと思います。
忙しいとか厳しいとかも、予想していた範囲内です。朝は11時ぐらいに行けばいいのですが、帰りは不規則で、ロケの準備で深夜になったり、編集で徹夜になることもしょっちゅうです。「終わる時間がやっと見えてきた。」と思っても、突然何かが勃発してディレクターから「これやって。」って言われたり...。
だから気軽に友達と約束ができません。土日は基本お休みですが、日曜日にロケが入ると土日も仕事が続きます。そうなると翌週には「今日何曜日だっけ?」となったりします。与えられた仕事をいかに効率よく仕事するか自分次第のところもあり、要領がよくないとやっぱり時間がかかってしまいます。
ストレス発散はどうしてる?
同期の子と飲みに行ってグダグタ愚痴を言い合っているのが、一番のストレス発散方法かな。仕事が終わってから飲みに行くと、帰るのは深夜過ぎになるのでちょっとしんどいんですけど、わかる人としゃべってないと愚痴も伝わらないので...。
忙しすぎると、正直ストレス発散とか考えている暇がありませんね。ただ疲れ果てて家に帰ってすぐ寝るだけです。休みの日は1日中寝ていたり、ずっと行けていなかった美容院に行くだけで、そんな風に1日が終わってしまうとちょっと損した気分になります。最近は、時々ゴルフ練習場に行ったりしています。
やってみたい番組とかありますか?
うーん。入った頃は、番組作りに「少しは自分のカラーが出せるかな。」「こういう番組を作れたらいいな。」みたいなのもあったのですが、今は局が発注するものじゃないと作れないとわかったので...。
局があっての番組なので、こちらで勝手に面白いものをやろうとしても「そんなのいらない。」って言われたら終わりだし、「ADには自分のカラーなんていらない!」ということがよく分かりました。それはディレクターになっても状況は同じじゃないかな。今は自分がどこに向かうのかも全く分かりません。
------海外ロケとか旅番組とか面白そうじゃない?
海外との交渉とか、ロケの準備が大変そうですね...。
そうか(笑)。舞台裏を知ると夢がなくなっちゃうね。
そうですね。確かに最近はテレビ見なくなりましたもん。余計なことを考えちゃうから。今は、朝のニュース番組を見るくらいです。友達には、「楽しそうでいいねー。」とか言われますけどね。
あ、でも、車の番組をやってから「車っていいな。」って思い始めました。それも昔の車が。よりによって古いやつが欲しいんですよ。ワーゲンのタイプツーとか、あのバタバタバタバタって走ってるやつ、可愛いくないですか。エアコンとかないし夏はやばいですけどね。
覚悟して乗らないとね。
そうなんですよ。覚悟なんですよね、アレは。ちゃんと動く車も持ってないといけない。
買ってもドライブする時間がないんじゃない?
そこが問題なんです。今の仕事だと乗るヒマがないから、クルマ買っても意味ないんですよ(笑)。
給料はいくらぐらい?
色々引かれて手取りで19万くらいです。他に夏と冬のボーナスもあります。あと決算でプラスだったら春も。制作にしては、給料はそんなに悪くない方だと思います。制作会社も色々で、派遣AD専門の会社もあります。
つらくて辞める人も多いと聞きましたが?
同期6人、男3女3で入ったんですけど、ひとりはすぐに辞めてしまいました。私も何回も辞めようと思ったことがあります。
なぜか男性がすぐに辞めちゃうみたいで、同じ比率で取っても女性の方が残っています。だからADは今女性の方が多いんですね。女性ディレクターもぼちぼち出てきています。でも50過ぎの男性ディレクターには、「女性はあんまり冒険せずに堅実に行っちゃうから、破天荒な番組は少なくなるねー。」と言われます。
今は、ディレクター4人にAD3人が付いているので、毎回付くDが違っていて、仕切る人によって現場の雰囲気もテンションも違ってきます。台本の時から「この画像いる。いらない。」とわかっているDは編集も早いけれど、尺は決まっているのに最後まで入らないって騒いでいるDもいるし、ギリギリに言ってくる一番嫌なパターンもあります。そういうDの下に付くと大変です。
ところでニチジョに入ったのは?
スポーツは元々好きでしたが、中高と吹奏楽部で特にスポーツ系の部活には入っていません。大学を選ぶ時に経済学部とか社会学部とかよく分からなかったし、「勉強するなら楽しい方がいいかな。」と思って体育大に入りました。健スポです。大学時代は学外の楽団に入っていました。音楽の道に行こうとは全く考えませんでした。
大学に入った頃は彷徨ってますね。人を教えるのは苦手なので教員は考えなかった。高校の頃からマスコミに興味があって、テレビ系には進みたいとはぼんやり思っていました。シュウカツはテレビ系だけです。「やめとけ。」って言われれば言われるほど、そっちに進みたくなる性分なんです。何か人の意表を突きたかったのかな。
ADに興味がある学生へのアドバイスはありますか?
体育大生は身体が動くし場の空気が読める人が多いので、ADには向いていると思いますよ。今何が必要かが分かること、コミュニケーション能力やチーム力はとても大事です。ニチジョ生で他にADになってる人いますよね?あの辺に制作会社が密集しいて、会社の近くの道ですれ違った気がするんです。
いちばんの問題は、休みがなくて耐えられるかですね。私は大丈夫と思って入ったんですけど、ずっと仕事が続くとやっぱりへこみます。華やかな世界だけど完全に裏方なので、やっている仕事は本当に地味です。時間が不規則で徹夜もあるから、若いうちはいいけど歳とって来るとしんどいと思うので、よく考えて入ったほうがいいです。
今年の春に新人が入って来て、私が教育係なんですけど、もう教えるのがめっちゃ苦手で困っています。「これは分かってるだろ。」っていうことが全然わかってなかったり、現場で突然違うことをやりだすから本当に恐いんですよ。「そんなこと言ってない!」って何回言ったか...。
1人はすぐ辞めちゃって、残った男の子は中高大サッカーをやってきた体育会系という触れ込みで入って来たのに、全然ハキハキしてないし大きい声も出せないんです。うちの業界に限らず、最初に体育会系って言うと求められるものに覚悟がいりますよ。動けるとかハキハキしてるとか、全部出来ると思われるので。
最初に「体育会系です。」って言わずに、仕事っぷりで「結構根性あるね。」って認められてから、「実は体育会系なんです。」って言った方がかっこいいと思います。