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山辺 千秋(2007年度・舞踊学専攻卒)
■ダンス企画制作会社
いろんなことが同時進行で動いていく仕事です。
ダンスの企画制作会社で制作の仕事をやっている山辺さん。前はダンスとは全く関係のない仕事をしていましたが、その会社が民事再生法の適用を受けるという経験をしました。それがきっかけとなり、今度は自分の好きなことを仕事にしようとダンス業界に転職しました。
<2010.03収録>
新卒の時は、マンションデペロッパーの会社に勤めましたね?
はい。でもその会社が倒産しそうになり、2008年の11月に民事再生法の適用を受けました。幸い会社自体はなくならかったのですが、業務は大幅に縮小されてしまいました。学生時代に、ダンスの仕事を取るか安定した生活を取るか、悩み抜いた末に決めた会社でしたが、結果的にはそこを1年足らずで辞めることになりました。(詳しい話はこちら)
今の会社に入ったきっかけは?
前の会社がそんな風になってどうしようと思っている時、ニチジョOGのS先輩に、ダンスの制作の会社を紹介していただきました。S先輩もそこでフリーの制作の仕事をやっていました。コンテンポラリーダンス界では名が知られている会社で、ちょうど前任の人が辞めるところで人を探していました。お話を聞いてみて、「制作をやるんだったらこれ以上の環境はない。」と思い、2009年の2月に入社しました。
どんな会社ですか?
社長とプロデューサーと先輩の女性と私、合計4人の小さな会社です。
どんなことをやっているの?
主にコンテンポラリーダンスのカンパニー(グループ)のダンス公演の制作をやっています。カンパニーは、「輝く未来」、「BATIK」、「カンパニ-デラシネラ」、「まことクラヴ」など、あとはプロジェクトごとになりますが白井剛さん、森下真樹さんとかです。私はおもに「輝く未来」担当です。
他にも、いろんなところからカンパニーに対して、公演やワークショップのオファーがきたりするのでその窓口にもなったり、公演のプロデュースやワークショップの企画、助成金の申請、海外公演先との折衝などもやっています。そちらの方は、主にプロデューサーと先輩の女性がやっています。
学生時代にも制作をやっていましたね?
はい。でもよく先生に、「おまえがやっているのは制作のほんとに一部でしかないんだぞ。」って言われていました。あの頃はわからなかったけれど、もっとずっと幅が広い仕事で、今になってその意味がよくわかりました。
どんな感じで働いているんですか?
私の仕事は、公演のパンフレットやチラシ作成、公演広報、チケット管理などから、ダンサー、スタッフへの連絡・管理、稽古場の手配など、ダンス公演に関わるもろもろのことをやっています。
今はほんとにあり得ないくらい忙しくて、いろんなことが同時進行で動いています。昨日まで現場(舞台)だったんですけど、楽屋で別の公演のチラシの校正をしていたり。私は現場、先輩は海外のツアー、プロデューサーは東京都のプロジェクトで三宅島にいるので、お互いにメールで打ち合わせをしながらやっています。
いつも「何か忘れてるんじゃないか?」とか、「どこかに連絡抜けちゃってるんじゃないか?」とか思ってしまいます。
そんな調子なので、今年の夏は体調を崩しちゃいました。別に精神的にじゃなくて、単に胃がおかしくなっただけですが。朝起きるとまず胃液をはく生活。現場に入っているとお弁当が揚げ物ばかりで食べられなくなって、ウィダーインゼリーだけみたいな生活をしていたら、1カ月で5キロくらい痩せちゃって。
勤務時間とかは決まっている?
現場がなければ、朝はちょっと遅くて11時からです。そのかわり夜は際限ないですね。どっちにしても終わらないので自分が今日どこまでやるか決めます。どうしても今日やらなきゃいけない仕事じゃなければ、8時くらいに帰ることもできます。その辺は自分の裁量で、っていうか、今はあんまり裁量に収まってなくてキャパオーバーになっちゃっているけど。
お給料はどれくらい?
お給料ははっきり言って厳しいです。前の会社(マンションデベロッパー)の半分くらいかな。今は実家に住んでいますが、保険とか年金とか奨学金の返済とかを払うと、ぎりぎりですね。一人暮らしはちょっとできません。でもお給料は安いのはわかっていました。最初に入る時、プロデューサーにも「大変だよ。」って言われました。それでもやってみたかったから、やってみようと思いました。
人生、お金じゃないと。
そこまでは思わなかったけど(笑)。「会社に入ったって、つぶれる時はつぶれるんだ。そんな時代なら、ちょっとは自分の好きなことをやってもいいんじゃないかな。若いうちにしかできないから、やってみるか。」という感じです。一般企業の会社を探して、またシュウカツをするエネルギーもなかったし。
制作と芸能事務所の違いは?
制作はあくまでも公演に対しての組み立てをやっています。芸能事務所のように、ダンサーの日々のスケジュールを管理したりはしません。だから、ダンサーに給料を支払うということもありません。こちらが公演の予算を組んだ中から、制作費というかたちでいただいています。
海外の仕事ってどんなことを?
海外のダンスフェスティバルや劇場から、カンパニーが招聘された時に、海外とのやりとりや折衝、ビザの取得、現地でのツアーマネージャーなどをやります。私は英語が喋れないので、海外に行ったことはないですが、制作としてこの先やっていくなら、英語を喋れないと話にならないかもしれません。
観客がたくさん入ると儲かりますか?
制作の予算は基本的に決まっているので、たくさん入ったから増額されるということはありません。ビジネスのことはあんまりわからないんですけど、公演を商業的に成り立たせるためには、マスコミと結びつかないと難しいのではないでしょうか。コンテンポラリーダンスの公演は、助成金がないとなかなか打てないという現実があります。
助成金というのは、文化庁や、アサヒビール、セゾンなどの企業に、公演のために出してもらうお金です。申請書を出して、採択されるといくらという、金額が決まります。助成金の申請も制作の仕事ですが、カンパニーごとに申請するので、お金はカンパニーの口座に入金されます。
景気のせいで企業はやっぱり厳しくなっているので、助成額は年々減っているみたいです。文化庁の方も事業仕分けで大幅に削減されてしまったようです。
コンテンポラリーダンスがもっとメジャーになるといいですね。
私たちも公演のたびに、プレスリリースをマスコミに対して出しています。新聞や雑誌は時々記事を載せてくれるんですけど、テレビは中々取り上げてくれません。
でもある時、NHKの番組で「BATIK」の作品が流れて、視聴者から反響がすごくありました。「BATIK」のメンバーは全員女性で、ヒステリックに叫んだり性的な表現ともとれる部分がある、センセーショナルな作品を踊ったので、NHKでこんなものを流していいのかみたいな反応もあったらしいです。それがヤフーニュースや2チャンネルで話題になったりもしました。
でもそういう批判がくるだけでも、すごいことだと思うんですよね。それ以来「BATIK」のファンも増えて、会場には今まで見られなかった普通のおばさまや背広姿のおじさまも来られるようになって。たまたまその番組を映画監督の中島哲也さんが見ていて、主宰の黒田育世さんに映画の出演依頼が飛び込んできたり。野田秀樹さんが見にきてくれて、NODA-MAPへの振付提供が決まったり。
そういうとっかかりさえあれば、コンテンポラリーダンスも今よりはひろがるはずだと思います。
逆に言えばそれだけ知られてなかった?
そうですね。前の会社の友達とかに、コンテンポラリーダンスって言っても全然わからないし。「コンドルズ」とか、かろうじて知っているくらいで、なんかよくわからないダンスというイメージのようです。よくわからなくても全然いいし、勝手に解釈していいですよっていうものだとは思うんですけど。
私も「BATIK」はすごいなと思うのは、観るとすごい揺さぶられるんですよ。何回観ても、毎回同じところで涙が出ちゃったり。感動とか共感とは少し違うんですけど。
古い脳を刺激されるというか。
そうです。過去の自分の経験とか記憶が呼び起こされるというか。とても女性的で、女性の知られたくない部分の感情とか体験とか、そういうのをえぐられる感じ。別にそんなことも意識してないって、黒田さんは言うんですけど。
公演のアンケートを見ても、今までの人生のなかで一番の衝撃でしたみたいなコメントがあったり、逆にこんなものを見せてけしからんみたいのもあったりするんです。そこまで書かせるってなかなかない。つまんないと思ったら書かないで帰るし、その作品がほんとに不愉快だったんですよ。そのくらい反響があるっていうのは、やっぱりすごいなって思う。
ある意味で観客とコミュニケーションしている?
そう、伝わっている。私はたくさん見てきたわけではないんですけど、そういう風に思うのってなかなかないから、すごいなと思います。
やりがいを感じるのはどんな時?
やっぱり学生の時にずっとやっていたことだし、やりたかったことでお金をもらえてるっていうのは、幸せを感じるときです。お給料は少ないけれど、ダンスの仕事で生活しているっていう誇りというか自負みたいのはあります。
ただここ最近忙しくなりすぎてしまって、仕事は好きなのに、ほんとに大変でつらくなってしまい、何のために働いてるんだろうって思っちゃったりすることもあります。お給料のことを考えてモチベーションが下がっちゃう自分もイヤだし、でも働いたお金っていうのは大事なことだし。だからバランスですよね。
将来はどうなりたい?
私は単発の公演の業務はできるんですが、カンパニーの営業というか、いろんな劇場やプロデューサーにプロモーションするとかいうことはまだできない。ビジネスとしてカンパニーをマネジメントして公演をプロデュースしてっていう、もっと上の段階の仕事ができようになってほんとに制作って名乗れるんだと思います。
ゆくゆくはできるようになりたいと思っていますが、今はかかえていることが多すぎて、あまり余裕がありません。3月まではずうっと公演があって忙しいから、とりあえず3月まで頑張ってみて、そこでちょっと考えてみたい。
成長していますね。
いちおうプロなので今。
自分をプロって呼べるようになったんだね。
せっかくそういう意識が芽生えたのに、お金がつらくてやめるっていうのはもったいない。コンテンポラリーダンスの仕事を続けるなら、今のところで頑張るべきかなと。
もし他の仕事をするとしたら?
今は他に何をしたいのかわかりません。すごく実力をつけてプロデューサーになるとか、劇場の職員になるとかもあると思いますが。ぜんぜん具体的じゃないけど。
一般企業とダンス業界を見てきて、舞踊学専攻の学生にアドバイスをするとしたら?
私は制作で踊っているわけではないですが。生活の安定やお金だったら絶対に就職した方がいい。でも好きなことがやりたいんだったらやればいいと思うし、いちがいには言えないですよね。何を求めるかですね。
バイトしながらダンスだと、バイトの稼働時間って結構長かったりするじゃないですか。ダンスをしていても、お金がそんなにもらえるわけじゃなくていつまで踊れるかわからなくて、大変だと思うし。
企業で働いて毎日出社して仕事してっていうのは、その大変さ、責任の重さとか、会社に勤めた人しかわからないこともある。バイトして稽古もして、それも大変だと思いますけど、その大変さとはちょっと違いますよ、やっぱり。
仕事って終わりがないので、毎日決まった時間で働いてお給料もらって、それがずうっと続くわけじゃないですか。それが時々、なんかすごく怖くなるというか、働いている限り一生続くのかと思うとゾクッとしますよね(笑)。