資格・就職
- 公務員系
- 市役所窓口業務
鳥海 久美子(2009年度・健康スポーツ学専攻卒)
■T市役所勤務
海辺の町のひとり暮らしが私を変えた。
学生時代は自転車競技をやっていた鳥海さんは、市役所の窓口業務の仕事に就いています。地元で勤めるか一人暮らしをするか悩んで、始めての土地での生活を選びました。
<2010.10収録>
何をやっているの?
市役所の市民課にいます。今年の4月に大学を卒業して、働き始めてからまだ半年です。仕事は窓口業務で、住民票や戸籍謄本など色々な書類の請求や申請に来られた方の応対をしています。市民課は、来庁される方のほとんどが利用される部署で、高校生からお年寄りの方まで色んな方がいらっしゃいます。
市役所に勤めることになったきっかけは?
元々公務員志望で、4年生の時にホームページを調べていたら、偶然ここで採用募集をしていることがわかりました。この市役所があるT市は、関東の海辺にある23万人あまりの市です。大学を卒業するまでずっと実家に住んでいて、私にとっては初めての土地でしたが、サーフィンが好きな父と「海辺の町に住めたら最高だよね。」って時々話していました。
ホームページで応募の締め切りが明後日までとなっていて、「これはもう行くしかない。」と思い、さっそく応募用紙をもらいに行きました。地元の役所も受けるつもりだったので、ここは練習と思って受けてみました。
試験はどうでした?
1600人の応募者がいて採用人数は35名だったので、「もう無理だ。」と思いました。1次試験は市内の大学を借りて行われ、すごい人数で行き帰りのバスも満員でした。
1次はエントリーシートのようなA4の紙に質問項目が5つくらいありました。「今までやってきたことで仕事に生かせることは何ですか?」という質問には、こどもの頃からずっとやってきた自転車競技のこと、競技を通じて忍耐力を養ったことなどを書きました。
2次に残ったのは400名でした。絶対落ちると思っていたので2次に残った時はびっくりしました。5~6人のグループで集団面接を受け、ニチジョで参加したインターンシップのことなどを話しました。言いたいことは言えていたと思いますが、やっぱり緊張していたのか、面接が終わって部屋を出た途端に腰が抜けたように歩けなくなってしまいました。
3次は、筆記と集団討論、個人面接でした。筆記はまあ、やるだけやったという感じです。集団討論がヤマだったと思います。議題は、「市民討論会を開催します。第1回目のテーマにどんなものがふさわしいか、みんなで話合ってください。」というものでした。7人のグループで、みんなすごく具体的なことを発言していました。
私は何も思いつかないので、「第1回目ということで、色々な年代の方にどんな街にしたいかを聞いてみるのがいいのでは。」と言いました。そこで出た意見を、2回目以降のテーマにすればいいと思ったからです。私たちの集団討論のグループからは、4名が受かりました。その時の同期3名とは、今でも仲がいいです。合格者の中で、体育大学卒は私だけです。
配属が決まったのは?
スポーツ課というのがあって、私はそこに希望を出していたのですが、4月1日の辞令で市民課に行くことが決まりました。他の同期の子も、希望の部署に行けた子はほとんどいなかったようです。入庁して、最初に2週間の研修がありました。
どんな感じで働いていますか?
勤務時間は朝8時半から夕方17時15分までです。窓口の受付終了は17時ですが、いつも18時半すぎくらいまで働いています。戸籍の審査をする部署などはかなり遅くまで残業しているので、市民課の中では早いほうです。いつも申し訳ない気持ちで帰っています。
今日は、土曜日なので午前中だけ働いてきました。土曜日に出たりすると、平日に代休がもらえますので、そういう時は実家に帰ってのんびりしたりしています。せっかく海の近くに来たのに、普段は忙しくてなかなか海に行けません。でもお休みの日には、かわいいお店があるあたりに自転車でプラッと行ったりもします。
住んでみてどうですか?
知らない土地でのしかも初めての1人暮らしで、うまくやっていけるか最初はかなり不安でした。大学の時に採用者の交流会があって、そこで地元の同期の人と仲良くなれたのが良かったと思います。今のマンションを決める時も、同期の子にアドバイスをもらいました。海辺の街なので、日焼けしていてアロハな感じの住民の方が多く、そういう雰囲気もいいなと思います。
どんな学生時代でした?
自転車競技をやっていました。父が大のスポーツ好きで、自転車のアマチュアレースに参加していました。その影響で、私も小学校の時から自転車競技を始め、地元のクラブチームで男の子の中に混じってレースを走っていました。
小学校の頃って、女子のほうが体格がいいじゃないですか。簡単に入賞できてしまうんですよ。表彰台では、いつも「鳥海クン」って呼ばれていました。父をはじめ周りにスポーツをやっている人が多かったので、スポーツ系のサポートがしたいと思い、ニチジョに入りました。
大学3年くらいまでレースに出ていましたが、同時に自転車関係のお仕事もやっていました。自転車レースの実況をしているアナウンサーの方と仲良くなり、一緒に大会について行ってお手伝いやマネージャーのようなことをさせていただいたり、レースの受付やサイクルショーのイベントのアルバイトもしていました。
その頃は何になりたかった?
アナウンサーの方の実況中継を見ているうちに、そういう仕事も面白そうだなと思いました。その方も昔は自転車競技をやっていて、自転車の世界一筋で生きている人でした。「あなたもやってみない?」と言われて、簡単なアナウンスの仕事をやらせてもらったりしました。
でも何の保証もない実力の世界だし、一旦その世界に入ったら他のことは何もできないような気がしました。「自分には、自転車は趣味のままの方がいいかも。」って思いました。
自分の全く知らない業界を体験してみようと思って、3年生の時にインターンシップに参加しました。ディズニーランドの近くにあるホテルでベルの仕事を体験しました。お客様をご案内したりするのはとても楽しい仕事でした。
父が消防士で母も保育士だったので、公務員というのはずっと頭にありました。職種は特に考えていませんでしたが、大学2年の冬頃から公務員試験の勉強を始め、自分で問題集を買ってきて勉強していました。
シュウカツは?
地元の役所とT市役所、警視庁を受けました。あとサイクルショーのイベントでアルバイトをやっていたご縁で、スポーツ用品メーカーも受けました。でも、面接の日に高熱を出してしまい、質問にうまく答えられなくてそこは落ちてしまいました。
T市役所の試験の後に、地元の役所を受けました。地元も合格することができ、T市と地元、どっちにしようかと悩みました。色んな人に相談しましたが、皆に「地元に受かったのなら、やはりそっちのほうがいいのでは。」と言われました。
最終的に地元にしなかったのはどうして?
地元に合格して2週間以内に、どちらにするかを決めなくてはいけなくなりました。実家は父と母、祖父母と弟の6人家族で、ずっと実家に住んでいたので、「私が家を出ていったら祖父母が悲しがるんじゃないか。」とか、「母が大変になるんじゃないか。」とか色々考えていました。
一方で、「もし私が地元に就職したら、そのままここで結婚して、ずっと地元から離れられなくなるんじゃないか。」と思ったりもしました。
小さな町なので人間関係が濃いというか、みんなが知り合いのような感じなんです。祖父も昔役所に勤めていて、今でも役所に知り合いがたくさんいます。私がそこに入って、もしも失敗をしでかしたら、家族が肩身の狭い思いをするのではという変なプレッシャーもありました。
どっちに決めても後悔すると思い、「後悔が小さいのはどっちだろう?」と考えました。地元にしたら、T市とは永遠にお別れになります。「T市が駄目だったら、帰ってくればいい。だったら今しかできないことをやろう。」と思ったんです。
祖母には泣かれましたが、母に「この先お嫁に行ったら一人暮らしはできないから、今ここで体験しておくのもいいかも知れないね。」と、最終的に背中を押してもらいました。地元を辞退する時は、私も書類を涙で濡らしてしまいました。
今までのことを何もかも振り払って、旅に出たような感じでここに来ました。正直ひとり暮らしで寂しいので、後悔する時もあります。たまに実家に帰ると、戻りたくなくなったり。でもずっと地元にいたら、自分は何も変わらなかったし、成長もできなかったと思います。
ひとり暮しをして働き始めて、自分が変わりましたか?
それまでの自分はかなり生意気で我が儘だったと思います。T市に来てから丸くなったというか、性格が変わった気がするんです。
市民課の窓口には色んな方がいらっしゃるので、たまには怒鳴られたりすることもあります。そんな時には最初は神経が高ぶってパニックなったりしていたのですが、それではこの仕事はやっていけないと悟りました。
入りたての時、書類請求に印鑑が必要なのに持っていなかった方がいました。「印鑑を持参して再度ご請求に来てください。」とお伝えしたのですが、その方は「ああ、わかった。わかった。」と、私が全部説明し終わる前に帰ってしまいました。次に来られた時もやっぱり印鑑を持っていなくて、「印鑑が必要なんて聞いていないぞ。」って怒られ、すごく悔しい思いをしました。それ以来、必要なものは必ず紙に書いてお渡しするようにしています。
それでも、「電話で問い合わせた時は言われなかった。」とか、印鑑登録には本人確認ができる顔写真付きの身分証明書が必要なのですが、持参していなかった方に「どうして本人が来ているのに発行できないんだ。」と怒られたりすることもあります。
正直、みんながいる前で怒られたりするといい気持ちはしませんし、「どうして私がそんなに言われなくちゃならないの。」と思うんですけれど、なるべくヒートアップしないように、まずは苦情を受け止めて冷静に対処をするようにしています。
ストレスがたまりそうですね?
周りの職員の方に「大丈夫だった。」とか、「大変だったね。」とか言ってくれることで、すごく救われます。あと、同期の仲間の慰めや励ましもとても力になります。お昼にみんなで集まってご飯を食べながら、いろんなことを話しています。「この前、こんなことがあったよ。」とか喋っているだけで、けっこう気がまぎれてきたりするんです。
もちろん「ありがとう。」って言ってくださる人もたくさんいるし、最近は、説明のしかたや、そうなった時の対処の仕方にだいぶん慣れてきて、市民の方に気持ちよく帰っていただくことを目標に頑張っています。
ストレス発散はどんなことを?
週に一回ヒップホップダンスを習っているのでそこでストレス発散をしたり、お休みの日に東京や海に行ったりしてリフレッシュしています。
これからどうなりたい?
仕事だけじゃなくて、プライベートも充実させていきたいですね。仕事をしていく上でも息抜きは必要だと思います。ダンスもそうですが、今しかできないことをやろうと思っています。
一人暮らしも始めてみたらけっこう大変で、忍耐が必要です。いくらお腹がすいても自分で作らないと何も出てこないし、「ああやっと寝られる。」と思ったら洗濯機が回っていたとか(笑)。毎日が修行のようです。私は自転車やトライアスロンをやってきたので、自分を追いこむのがけっこう好きなんです。だから今が苦しくても将来の自分のために頑張っていきたい。
将来の自分はどんな自分?
後から振り返った時に、「ああこんなこともした、あんなこともしたね。」って、笑って色んなことを思い出せるような自分です。そのために今、色々なことを経験してみたい。
最後に公務員になりたいニチジョ生にアドバイスを。
公務員と言っても、色々な仕事があって9時5時で働いている訳でもないし、あまり固定概念を持たないほうがいいと思います。行政サービスも民間会社の考え方と似てきているし、自分のアイディアが提案できたりもするので、体育大生にとっては自分の特長がアピールできて、色々な可能性がある仕事だと思います。