資格・就職
東京都の教員として教壇に立つ魅力とは
勝嶋 憲子さん
■東京都教育庁指導部高等学校文化振興担当課長
本日のお客様は、東京都教育庁指導部高等学校文化振興担当課長の勝嶋憲子さんです。勝嶋さんは、東京都の教員として都立永福高等学校や都立第五商業高等学校などを歴任し、都立三鷹高等学校では副校長を勤められました。副校長を退任後は以前勤務していた東京都教育庁に戻りました。現在は、指導部高等学校教育指導課主任指導主事を経て、指導部高等学校文化振興担当課長として200校近い都立高校を管轄に置いています。そんな、長きにわたる教員としての経験や東京都教育庁の職員としての知見を通して、東京都の教員採用選考受験までに必要な準備や心構えなどについてのアドバイスをお話いただきました。。
<2018.10収録>
教師生活は試行錯誤の連続
今日は自分の経験を通して、来年度実施される東京都の教員採用選考について具体的なことをお話しできればと思います。
教員としての最初の赴任地は、杉並区の都立永福高校でした。今は特別支援学校に変わりましたが、以前は普通科の学校でした。私には子どもがいましたので育児休業も取り、初任で13年間勤めました。水泳部の顧問を担当し、生徒と一緒に汗を流したのが懐かしいです。しかし、クラスの担任を持つとプレッシャーを受けますし、進路指導や保護者の対応などを日々悩みながら対応していました。
その次に国立市の都立第五商業高等学校に6年間勤務しました。6クラス中4クラスが女子、2クラスが男女で、ほとんど女子校に近い雰囲気の高校でした。次に、北多摩高等学校(現都立立川国際中等教育学校)に1年間、主幹教諭として勤務しました。校長先生からのすすめで管理職試験を受け、東京都の教育庁に入都しました。体育健康教育班という小学校・中学校・高等学校の児童・生徒の健康や体育・スポーツを扱う部署に5年間、指導主事として在籍し、その後、都立三鷹高等学校の副校長を2年間勤めました。その後、再度、教育委員会に戻り、4年間、体育健康教育班で統括・主任指導主事を勤めました。
今年からは文化振興担当課長として文化部の活動を行い、平成34年度に行われる全国高等学校総合文化祭東京大会に向けて準備をしています。所属している高等学校教育指導課の管轄は約200校の都立高校です。私の班は8人体制で担当しています。
卒業式で涙した最後の学級担任
今から15年くらい前の話ですが、2校目に勤務した都立第五商業高等学校では、女子40人のクラスを受け持ちました。私が受け持った最後のクラスです。卒業式のとき「あなたたちが最後に受け持つクラスになるかもしれない」と、涙を流した場面もありました。商業高校なので、校則が厳しかったことを覚えています。当時はルーズソックスが流行していた時期で、それを履くことをやめさせようと指導していましたが、どうしても言うことを聞かない生徒もいて大変でした。お化粧をやめない生徒やスカートが極端に短い生徒もいて、どうしたらうまく指導できるか試行錯誤の日々でした。商業高校は就職を前提に指導していますから、校則や社会的なルールを守るよう厳しく指導していました。
私が受け持ったクラスの生徒は、他のクラスに比べて授業の始まりと終わりにきちんと挨拶をするとても気持ちのいいクラスという印象が広まっていました。一方で、「勝嶋先生」と私を呼ぶのですが、個人的に話す時には「カッちゃん」と呼ばれていました。度々行っていた個人面接でも、いろいろな悩みを聞いたりしていたので、生徒にはとても近い存在に感じられていたのでしょう。中には、素行の良くない生徒や問題をかかえていた生徒もいましたが、不思議なものでそんな生徒に限って思い出に残っていて、今でも付き合いがあるほどです。
自分の強みを磨いた大学の部活動
大学時代の4年間は硬式テニス部に所属し、大会にも出場しました。しかし、保健体育科の教員になれたからといって、自分の得意なテニス部の顧問になれるわけではありません。オールラウンドでやらなければなりません。都立永福高等学校では水泳部の顧問をしました。その次の都立第五商業高等学校では女子バレー部の顧問です。自分もバレーボールが好きなので、生徒と一緒に試合をして楽しかったです。生徒と共に汗を流すのは、とてもいい経験だと思います。その後、女子の硬式テニス部の顧問をしました。体育の教員というのは、部活動が一番の醍醐味だと思います。ですので、皆さんも何でもいいので専門分野をもっていると必ず強みになります。4年間の大学生活での部活動は、とても大切な経験だと思います。
東京都で教師をする3つのメリット
今日は、「東京都が目指す教育」を具体的に話していきたいと思います。東京都教育委員会には教育目標があります。「思いやりと規範意識のある人間」「社会に貢献しようとする人間」、それと「個性と創造力豊かな人間」。これを基にしながら、各学校で経営計画を立てています。
次に、東京都の3つの魅力を紹介します。第一の魅力は、「採用数が他県と比べて多い」ということです。私の文化振興班には島根県出身の男性の社会科教員がいます。今まで島根県で社会科の時間講師として勤務し、採用試験を受けてもなかなか受からなかったそうです。他県は採用人数が教科によってとても少なく、社会科や保健体育は非常に倍率が高いと思われます。東京都も倍率が高いのですが、採用人数が多く、彼も最後は東京都で受けたそうです。具体的な数字を見ると、採用見込み数は近県の募集数に比べて2倍から5倍の人数を採用しています。この採用見込み数が30年度の小学校で1,570人というのは大変多いです。
教員の採用数が他県と比較して多い
東京都の場合、体育科の教員になるためには中学校・高等学校共通体育科、もしくは特別支援学校中学部・高等部体育科のいずれかを受験する必要があります。東京都は中学校、高等学校の共通の枠で採用し、他県は教科ごとに採用をしているので単純に比較できませんが、東京都は教員を多く採用しています。因みに、中学校・高等学校共通体育科の30年度の受験者数は1,174人で、実質の倍率は7.8倍です。
科目別の倍率に関しては社会科と保健体育が一番高く、一番低いのが英語です。理由は、英語はスピーキングもできて能力が高いと多くの人は企業への就職を選択します。保健体育は全教科に比べて倍率が高いのですが、他県と比べると東京都は採用人数が多く、受かりやすいと言えます。一方で、特別支援学校中学部・高等部体育科の方が倍率が低い傾向にありますが、それは、特別支援教育に関する知識が採用試験で問われるからです。また、採用5年以内に特別支援学校教諭の普通免許状の取得が求められます。
過去3年間、東京都公立学校の児童生徒数は増えています。他県から東京都に流入する方が多く、全国とは逆になっています。今までは小学校の採用数が多かったので、これからは中学生が増え、そして高校生も増えていくという状況です。
全国から幅広い年代が教員として東京へ
第二の魅力は「全国各地から幅広い年代の教員が集まっている」という点です。選考課は全国規模で募集広報をしているので、地方出身の方も多く集まります。しかし、地方の方にとって東京の子どもたちは"接しにくい"のではないかという印象があるようです。でも、実際に子どもたちと接してみるととても純粋で、学業や行事にも一生懸命という印象に変わるようです。また、職員室には幅広い年齢層の教員が在籍しているので、生徒に関する悩み事も話しやすくアットホームな雰囲気です。合格者年齢別割合は20代前半が48%、20代後半が30%です。年齢が上がるほど実技試験の厳しさも増しますので、ぜひとも若いうちに教壇に立つことが理想です。
安心して教えられる充実のサポート
第三の魅力は、「環境整備」と教員への「支援体制」が充実しているという点です。例えば、教室における冷房設備の普及率ですが、全国平均が49.6%という中、東京都はほぼ100%に近い99.9%です。体育館にまでは冷房設備は設置されませんが、都立高校も含めてほとんどの教室に冷房設備が備わっています。
研修が充実しているという点も魅力の一つです。経験や職層に応じて多様な研修があり、採用前から研修を受講する機会が用意されています。法律によって1年目の教員は、どの自治体でも研修が義務づけられていますが、東京都では3年間で計画的に研修を用意しています。1年次から3年次の研修が終了した方や東京都の教師道場、主幹教諭のスキルアップ研修、教育管理職の方にも研修があります。東京都教職員研修センターもあり、教材なども充実しています。
東京で働く場合について、いくつかのポイントからシミュレーションをしてみました。まず、生活と通勤についてですが、東京は物価が高いというイメージがあり、生活に不安を感じる方が多くいらっしゃると思います。ここで、小学校で勤務している3年目の先生の生活費を例にあげて見てみました。手取りが23万円で住居を大田区と過程すると、家賃が月に約8万2000円。食費、光熱費、あとは趣味や交際費など余暇活動の費用を引いても、毎月2万円の貯金をしているという実例があります。
増え続ける生徒数が安定した採用数を後押し
次に注目したいのが、都内で勤務している教員の年齢分布です。小中学校は20代、30代が多く、高等学校は50代が多いのです。小中高の校種別ですと、高校は50代が多く、20代が少ないのです。しかし、低年齢層が少ない分、若い方がとても大事にされるという面は小学校よりもあると思います。では、小学校18学級、教員24人の場合の割合を見ると、一番多いのが30代の教員8人です。高校の23学級、教員51人の場合、50代が21人と一番多いようです。学校によって違いはありますが、ほとんどがこのようなバランスで成り立っていると思われます。50代の教員が多く、大半が60歳で定年なので退職を予定している教員が一定数います。今後も東京は児童・生徒数が増え続け、退職を控えた教員がおり、安定して多くの教員を採用する要素があると言えます。
働き方を様々な角度から見直す東京の「働き方改革」
次に「働き方」について考えてみましょう。今、東京都も「働き方改革」に取り組んでいます。私どもの教育委員会においても改革推進プランを2018年の2月8日に公表しました。週当たりの在校時間が60時間を超える教員をゼロにするという目標があり、東京都教育委員会や私たちも、残業が60時間を超えている教員はいないかを調べています。「ライフワークバランス」という言葉を小池都知事もよく言っています。「働き方」を考える上で、福利厚生も大切です。
次に、育休、産休の制度についてご紹介します。東京都では、妊娠された教員の体調を考慮して、様々な制度が準備されています。私が都立永福高等学校に勤務していた頃は、女性の教員の多くが1年間で復帰していましたが、今では制度が大きく変わりました。85%の民間企業では、子どもが1歳6ヵ月になると会社に復帰しますが、東京都では子どもが3歳になるまで育休の取得が可能です。幼稚園や保育園の通園も考慮するなど、子育てに配慮した勤務体系が用意されています。
そのほかにも、教員の有給休暇は1時間単位で取得できるようになっています。例えば、朝1時間の有給休暇を取得するというように、時間単位で取得できるのが特徴です。学校が夏休みの場合は5日間の夏休みが取得できます。平成28年度の東京都公立学校教員による年次有給休暇の取得日数も14.4日と、民間の8.8日と比べ、非常に取得しやすい職場環境ということがわかります。
続いて「やりがい」という面です。大学卒就職者の1年目の離職率は民間で11.8%です。東京都公立学校の教員の離職率は2.6%と、とても低いのがわかります。これは、やりがいのある職種ということと、福利厚生の充実が要因と考えられます。
今求められる理想の教師像、次年度選考について
「次年度の選考」についてお話します。東京都では、「1教育に対する熱意と使命感をもつ教師」「2豊かな人間性と思いやりのある教師」「3子供の良さや可能性を引き出し伸ばすことができる教師」「4組織人としての責任感、協調性を有し、互いに高め合う教師」、この4つの資質や能力を示しています。使命感があり、思いやりがあり、そして子どものよさ、可能性を引き出す教員です。さらに、責任感と協調性がある教員を求めています。
選考の大まかな流れは、3月下旬に実施要綱が発表されます。申し込み期間が4月上旬から5月上旬で、その後6月中旬に受験票が交付されます。そして7月に第一次選考、8月下旬から9月上旬にかけて第二次選考が行われます。最終の合格発表は10月の中旬です。選考の内容としては「一般選考」「特例選考」「特別選考」「大学推薦」の4種類があり、日本女子体育大学の皆さんは「一般選考」になると思います。
第一次選考は、「教職教養」「専門教養」「論文」です。過去の記憶をたどり、しっかり勉強すればそれほど難しい試験ではないと思います。「教職教養」「専門教養」「論文」、どれも積み重ねが大事です。過去の問題を見れば、難関を極めるような問題は出ていないので、とにかくコツコツ積み重ねて勉強してほしいと思います。二次選考は「集団面接」と「個人面接」で、どちらも評価の観点は教職への理解、教科などの指導力です。そして対応力、将来性、心身の健康、人間的な魅力などが問われます。
面接は、面接官が、表情を見たときに意気込みがわかります。短い面接で注目するのは、前向き感とか、本当に教員として子どもを育てようという熱意があるかどうか、面接官はよく見ています。面接の受け答えの内容は、記憶してきたことを答えればいいわけではありません。日々の何気ない積み重ねが、ふとした時に言葉や表情となって表れます。
次に「期限付任用教員」について説明します。教員採用試験に残念ながら不合格になっても、成績上位者には「期限付任用教員」として勤務するチャンスが生まれます。ですので、なるべく試験に臨む際には高得点を狙い、受験申し込み時に「期限付任用教員」の名簿登録を希望してください。
教員としての多様な働き方がある
次に「臨時的任用教員」「時間講師」について説明します。「臨時的任用教員」とは、「期限付任用教員」と「産休育休代替教員」ということです。この教員は、月給も正規教員と同じですので、ぜひ登録しておいたほうがよいと思います。「時間講師」は、保健体育の授業のみを担当する講師です。時間給ですので収入が低い分、複数の中学校や高校を掛け持ちしている人もいます。
「産休代替」や「育休代替」の登録をしておくと、正規教員がいない場合、登録した名簿から採用します。「産休育休代替教員」として3月、4月に受け付けし、7月1日から名簿に登録できます。この「産休育休代替教員」は筆記試験がありませんので登録をおすすめします。
熱意と普段の心がけが合格の成否を分かつ
最後に今後の情報として、東京都公立学校教員採用案内「東京の先生になろう」のホームページでは、「個別相談会」や「学校見学会」など、様々なイベント情報を公開しています。確認いただき、ぜひご参加ください。
私は若い頃、教育実習に行ってから、ますます教員になりたいという思いが強くなりました。都立高校に教育実習に行き、最終日には生徒から温かい言葉をかけてもらいました。その時の高校生がとても可愛いくて、皆さんもそのような経験をすると思います。教育実習が終わってから教員採用試験までは時間がありません。1ヵ月あるかないかで、7月には一次試験です。学生時代、私は絶対に教員になりたいという気持ちが強く、徹夜で教員採用や教職教養、専門も勉強しました。実技は大学で練習したり、高校に行って跳び箱の練習などをしたこともあります。目指すものがあると、何でもできると実感しました。
経験と挑戦を忘れず、いつも前向きに
今は、学校を支える行政という立場で働くことで、将来は子どもたちに還元できると考えています。何年か後には、校長として再び生徒の前に立ちたいと強く思っています。皆さんも、ぜひ志を高くもち、教員採用試験に向き合ってください。毎日コツコツ積み重ねれば、確実に道は開けます。難しいことではない、ということは言っておきます。日々の努力が大事だと思います。教育実習では、努力した分だけ児童や生徒から返ってきます。教員は、他の職業では得られないやりがいを感じられる職業です。ぜひ、様々な経験をして、挑戦を繰り返してほしいと思います。
最後に、私のモットーは「人には優しく、自分には厳しく」です。今の自分の部署でも、そのモットーを心がけています。学生生活で一番頑張れる時期があると思います。日々の修練を大事にし、ぜひ将来は「東京の先生」になってほしいと思います。期待していますので頑張ってください。
山下教授:勝嶋先生ありがとうございました。これから質問を受け付けます。どんな些細なことでも聞いてください。
学生:東京都が目指す教育方針は年ごとに変わりますか。
東京都が目指す教育は私のときからほぼ変わっていません。記憶しておけば採用選考試験の際に役に立つと思います。
学生:ありがとうございます。
私は、大学時代、学校の講座などを大事にしていました。教授の話にとても興味があったので、教室の一番前の席に座っていました。部活動も体育会で厳しかったのですがしっかり打ち込みました。教員に絶対になりたいと思っていたので、教授の話は絶対に聞き逃したくなかったし、ノートはしっかり取っていました。大学の講義は教員として学ぶべきことのベースで、実技ももちろんです。苦手なものがあるとは思いますが、オールマイティーじゃないと実技試験も突破できないと思います。普段の力を出すためには、得意なものをもっていたほうがいいと思います。
今日は日本女子体育大学で講演させていただいてよかったと思います。ご清聴、どうもありがとうございました。皆さん、頑張ってください。応援しています。