資格・就職
教員採用試験までに準備したい心構え
佐藤 光一さん
■金井学園理事長補佐、経済同友会教育アドバイザー
本日のお客さまは、金井学園理事長補佐の佐藤光一さんです。佐藤さんは東京都の教員として、東京都立駒場高等学校や小石川高等学校などを歴任。墨田川高等学校校長を退職後、埼玉栄中学校・高等学校校長を経て、現在は金井学園理事長補佐も務めるなど、さまざまな形で教育に携わり続けておられます。約40年にわたる教員生活を踏まえたメッセージをお聞きしました。
<2017.10収録>
教育実習で「教育っていいな」
今日のテーマは「教員になりたい!!」日女体大生へ~教員採用試験受験までの準備、心構え~という内容です。私は教員生活約40年ということで、いろいろな話をしたいと思います。
出身は岩手県の大船渡市です。高校は下宿をして、県立一関一高に行きました。岩手県の大船渡というと津波ですね。私が小学校4年の時に、チリ地震津波がありました。南米のチリで地震があって、約1昼夜かけて津波がやってきて、三陸が被害にあいました。私と家族全員が家に残されて、2階に上がりました。そうしたら家が隣に5メートルくらい動いて、大きな旅館にくっついてしまいました。家が潰れていたら、みなさんには会えませんでした。家がしっかりしていたので、その家は今回の津波まで約50年間持ちました。
もともと私は教員を目指していませんでした。親も祖父母も教員ではありませんでした。でも、学生全員が教育実習に行くような大学だったので、教育実習には行きました。そこで「教育っていいな」と思って、東京都の教員採用試験を受けて、教員になりました。
最初に着任したのが、東京都立駒場高等学校です。その体育科に15年おりました。いろいろなことがありましたよ。体育の授業で女子の柔道を始めた年にいた1期生が、オリンピックで3回メダルを取った田辺陽子でした。私が駒場を異動した年に入学し、大学時代に交通事故にあって車椅子の生活になり、パラリンピックで大活躍した松江美季も私の柔道の教え子です。
都立高校の教員を続け、駒場高校のあとは、小石川高校に9年ほどいました。あとは管理職になり、深川高校、井草高校、校長になって東村山高校、最後は墨田川高校です。
校長を退職してからは、ものつくり大学の学生募集を手伝いました。それから、国語の先生が多い九段下の二松学舎大学(特任教授)。昔は教員が多かったのに、最近はそうではないということで、強化するお手伝いをしました。その後、3年間、埼玉栄中学校・高等学校の校長もしました。生徒数が中高合わせて約3000人、中高合わせて1年間に16の部がインターハイ、選抜などの全国大会で優勝するような学校です。この4月からは、福井県に月に2回くらい行っています。食べ物が美味しいですね。米が美味しいでしょ、米が美味しいところはお酒も美味しい。まだ半年くらいですけど、これから楽しみです。
福井では、金井学園理事長補佐として、福井工業大学と福井高校(福井工業大学附属福井高等学校)と福井中学(福井工業大学附属福井中学校)に関わっています。去年のインターハイでゴルフ部が優勝し、去年と今年は高校野球の春の選抜大会に出ていた学校です。
学校行事は「協力」を学べる機会
本日の進め方としては、話題があって「これはどうなの?」というのがあれば、手を挙げて聞いていただければと思います。講義方式じゃない形でやりたいので、よろしくお願いします。
今日のテーマは「主体性と創造性」です。これは私が考える教育のテーマで、栄中学・高校でもずっと言っていたことです。誰かにやらされてやるのではなくて、「自分で考えて行動しようよ」ということです。他人のモノマネからでもいいけど、自分のものを作り上げていくということです。これは学校でも、学校経営の中でも話をしています。学校ではそれを「4兎を追え」ということを通して得るようにしろと私は言っています。「勉強」、「部活動」、「学校行事」、そしてもう一つ、なんだと思いますか? 勉強、部活動、学校行事の「3兎を追え」というのが、埼玉県のトップ校である県立浦和高校の目玉だったんですね。勉強だけやる学校や部活だけやる学校はありますけど。
学生:「夢」?
「夢」、いいですね。正解は「他を思いやる心」。教育の中で、ものすごく大事だと思っていますよ。それから、学校行事はものすごく大事です。なぜだと思いますか?
学生:協力?
そうです。主役、脇役、裏方、いろいろな人たちが協力して一つの行事を作り上げるでしょ。だから学校行事は重視してやっていかなければならないのです。学校行事は体育祭だけではないけれども、皆さんが教員になったら、学校行事は確実に戦力として期待されますよ。体育系をやっていたから、協力体制を作るのが上手いでしょ。企画、運営、いろいろなところの指導がビシっとできる。勉強中心にやっていた人にない力が、皆さんには備わっていると思いますよ。特に学校で行事が盛んだったなら、イメージが身体に残っていてやりやすいでしょう。
早くから教員を志望するのは大事なこと
ここから、質問コーナーに移ります。教員を志望している人が多いと思いますが、理由を教えてください。「中高の先生に憧れて」という人はいないですか?(挙手)やっぱり多いですよね。中高の先生に憧れて、得意分野を極めようということでこの大学に入った人は結構いるのではないかと思います。
皆さんのように、教員志望が今のうちからあるのはすごく大事ですね。先ほど学長先生ともお話しをしましたけど、ある程度勉強してから、教員になろうとするのでは、少し遅いですね。やっぱり「なりたい」という気持ちが先にある方が良いのは間違いないですよ。
私が福井に行っているのは、中学校、高校、大学の改革が目的ですが、仕掛けたものの一つに「東大生プロジェクト」があります。東大生に福井に来てもらって、中学生と話をします。ほとんど特別な勉強をしないで東大に入っている人もいるのですが、それは一部ですよ。やはり、何かをきっかけに勉強している人が多いんです。
東大には、昔は地頭の強い人が入っていたけれど、今はテクニックで勉強して入る人がいるから、地方からなかなか入らなくなってきました。「解答を覚えるから解答を教えてください」では、新しいものは発見できません。
私が小石川高校にいたとき、保健の授業で、1年間大脳についてだけやったことがあります。なぜだと思いますか? まだ人間の脳は99%くらい分かっていないと言われています。面白いじゃないですか。「大脳とタバコ」とか、「大脳と酒」とか、話が結構繋がるので、どのように大脳に影響するかについて、その時分かっていることを教えます。もし1%、2%をもとに、誰かが研究したら、社会貢献できるかもしれない。テストも分かっていることをやるだけだったら、やりがいがないでしょ。だからそのようなことも試みました。
「教員になるのは難しい」と思わないで
今、教員になるのは難しいと思っている人? 今日は易しいと思ってください。難しいというのは、あくまでもデータです。今から教員を目指す人は、難しいと思わないで簡単だと思ってください。難しいと思うと客観化できないんですよ。例えば、心肺機能を高めるために、みんなトレーニングしますよね。トレーニングでどうなるかって、大したことないです。数%の最大酸素摂取量が上がるだけです、ほんの少しです。でもそのために、ボーイフレンドとのデートもせず、食べ物も制限されて青春を送っている。何が大事なのかというと、その自信ですよ。自分はこれだけやったんだ、他の人よりもやったんだということです。
次に、教員って大変だと思う人? 大変なのになりたいの?
学生:部活動の問題で大変と言われていますけど、それでも好きなことをできたら良いなと思って、なりたいです。
いいね。私が小石川高校に勤めていた時、時期は少し違うけど、長女と長男も私と一緒に通っていました。長男は「学校の先生っていいよな」と言っていたそうです。私、自分が運動を好きだから、生徒と一緒にサッカーもテニスもあらゆるスポーツをします。それを「生徒よりも楽しそうにやっていて、給料もらって、いいよな」というようなことを長男が言っていたみたいです。また、大変だと思わないでやっているのが部活なんですよね。
最近は、学校がブラック企業じゃないかという話が出ています。学校の先生を経験していない人が多くを語っている。部活指導なんかは、外部に委託した方がいいんじゃないかとか。本当にみんなそう思いますか? 先生方は自分たちのためにこんなにやって大変だろうなと。でも楽しんでイキイキしている姿を見て、自分もそういう体育の先生になりたいというのもあります。もし何年か後に、「先生方は部活動を持ちません。民間から社会体育的にやります」となったら、先生になるのをやめたい人はいませんか? 何人かいますよね。
私は文部科学省の中央教育審議会のスポーツ・青少年分科会の委員をしていましたが、一つ感じたのが現場の先生が委員に少ないことです。東大や京大という優秀な大学を出ても、部活動をやらない人にはわからない。学校現場を経験しないとわからないことも多い。部活動の良さは、学校行事と同じでやってみないとわからないよね。また、教員のイメージって最近周りから言われるけど、実際、教員を経験しなくてはわからない。私の経験では、教員は最高です。どの教科も最高かもしれないけど、少なくとも、体育は最高ですね。
教育で一番重要なのはいつ?
日本の教育は、世界の中でどうでしょうか? 上位だと思う人手を挙げて。中の上は? 中は? 下位は? 私はね、かなり上位だと思います。これだけ日本人が良いのは、教育の成果だと思います。そういう意味では世界に誇れる日本の教育です。イギリスはいろいろな課題を抱えていても、ある時ブレア首相が「一番大事なのは教育、二つ目に教育、三つ目に教育」と言ったのが有名ですよね。その点では、日本の今はどうかなと思っています。
今あることを、正しく覚えて伝えるのが上手くなっても、わかっていないことをどうするか。だから創造性が必要です。好奇心が強い人が、社会を変えられると思います。これからみなさんが教員になったら、そういう感性を持った生徒を育ててくれたら嬉しいなと思いますね。言われたことをそのままトレースするだけでは、次の新しいものは発見されないと思います。
世界の中の日本の教育や、これからの日本の教育については、私見を話していきたいと思います。ここも、主体性と創造性をいかに育むかが、教師としていちばん大事なところじゃないかと思います。これは基軸です。今日のテーマとして覚えてもらえればと思います。
教育の中で大事なのはどの時期でしょうか? 保育園や幼稚園、小学校、中学校、高校、大学とありますが、どれが一番大事だと思いますか?保育園や幼稚園だと思う人? いない。小学校だと思う人? 理由は?
学生:6年間義務教育で定められているから大事なのかなと
学生:小学校くらいが一番好奇心があって、吸収しやすい。真っ白だから。
つまり好奇心を育むきっかけは小学校だと。そうですね。小学生、好奇心だらけですね。それを規制しないで上手く育てられるか、あるいはそれをどう引っ張り出すかですね。
中学校が一番大事だと思う人?
学生:思春期で、一番考えが大人に変わる時だから。
高校が大事だと思う人?
学生:就職か、進学か、一番将来が決まるから。
大学は? 大学はいないのか。私の考えだけど、どこが大事だとはちょっと言えませんね。中高が結構大事なポイントだなと自分ではずっと思っていたけれど、最近は小学校もすごく大事だし、幼児教育も大事だなと思います。
女性の教員が持つ役割
教員は難しいと思いますか? 今は、情報がありふれています。私のときは、過去問がどこにあるかもわからないし、「器械体操の試験はどうやるの?」ってくらいで、一般教養もやったことがないからわからない。今は情報がすごいです。情報があるのは良いようで悪いですね。下手をすると教員になるための予備校行って、点数を見て「もうダメ」となってしまう。自分には時間ないし、ちょっとやりきれないなとか。
先ほどの東大プロジェクトの話、数学が苦手だった東大大学院1年生がいましたが、中学時代にどうやって苦手を回避したのかというと、毎日念じることでした。精神論とは違うんですよ。高校の時に「数学大好き」って言っているうちに、錯覚して、好きになってきた気がして、そうしたら点数がちょっと伸びました。難しいと感じた時点で、ゴールはないんです。難しいということで片付けられてしまうから。学校の教員採用試験だって難しいと感じたら、受けないか、受けても難しいからってなるかもしれません。
そして、教員のありかたについてです。優しい先生になりたい人? 厳しい先生になりたい人? 真ん中がいい人? 最近の先生は厳しい先生が多いと思いますか、優しい先生が多いと思いますか? そうですよね、優しい先生が多かったでしょう。日本の教育の課題の一つです。日本の中で極めつけで厳しい先生、挙げられますか? シンクロナイズドスイミングの井村雅代先生。いつも7時間も8時間もプールで練習をするのに、6時間くらいで終わったら心配されたというくらい、徹底しています。
女子教員の役割の話になりますが、優しいというのは、私は絶対的に必要な要素だと思いますよ。ただし、本当に鍛えようと思ったら鬼になることも必要じゃないかという時に、男性でもそういう人はいますが、最近の男性は強く出られないところがある。本人の可能性を引き出すという意味では、井村先生とかに会わなかったら、選手はそれだけの実績を上げられなかったかもしれない。そこまで追い込むのについていくんですよね。40何年間学校にいますと、頭が下がるような女性の体育の先生が何人もいました。
「なぜ自分が教員になりたいのか」を考えて
残り10分くらいになりました。教員採用試験について少しふれましょう。4年生は試験が終わって、3年生は1年後ですよね。東京都の教員採用試験で何人受かったのか、志願者数や採用数はどうなったか、そういうのを押さえてほしいです。公立の場合は、東京都、千葉県、埼玉県という風に、都道府県単位で採用試験を行ないます。県によって内容ももちろん違いますが、傾向はあります。過去問で傾向と対策はわかりますが、今年からガラッと変わることもあるかもしれません。私立の場合は、学園本部が統括して試験を行うこともありますし、単独で行うこともあります。一般教養がある場合や、一般教養がなくて面接がある場合もあるかもしれません。私立の場合はそれぞれです。
教員になるための準備としては、なぜ自分が教員になりたいのか、どういうふうになりたいのかということを、常日頃考えてほしいと思います。中学校高校の先生を見るのも大切ですし、大学にもいい先生がいっぱいいます。
一般教養の対策は、過去問とかを通して勉強するしかありません。体育の場合は実技もありますが、対策です。ウェイトが大きいのが面接なんです。私も東京都の採用試験で何度も面接官をしています。例えば10人中9人が質問に対してイエスというのは間違いではないですが、印象には残りません。その時に、ノーと答えたら、「あり得ないでしょ」と、禁止されているわけじゃないけれどそう考えます。「その理由は?」と面接官が食らいついてきます。正解はないということが言いたいんです。正解を求めるとキリがないし、自分が予想した質問と違うと、頭が真っ白になります。自分の特性で、「自分はこうですよ」という答えを話せばいいわけです。なぜなら、そういう自分だからです。
面接でダメだったとしても、運が悪いだけです。例えば面接官が3人いるとします。面接と面接の間で話し合います。私はあるとき「絶対に東京都に欲しい」という人がいましたが、別の面接官には否定されました。面接官によって印象が違うから、落ちたからといってがっかりすることはありません。もし3回だめなら、教員には向かないか、その地域に向かないかもしれない。失敗例としては、トライアスロンの女子チャンピオンクラスだった人が、東京都の中高の教員採用試験を受けましたが、2回不合格でした。私が見ると面接シートがトライアスロン一色だったのです。トライアスロンって教科にないでしょ。だから教員に合っているかが、面接で重要なのです。それを極力押さえて面接に行ったら、その人は次の年に通りました。
面接準備では、自分を知ることが大切です。長所と短所を何十個でも書き出して、長所を5個か3個くらいに絞っていく。そうすると、自分の長所が見えてきます。そうしたら、自信を持って自分について答えられる。「明るい」と言ったらすごくいいし、「暗い」というのも、地道で失敗しないような印象がある。考え方によっては、裏表があるわけです。自分の長所を調べるのは、今からできることです。
だいぶ時間をオーバーしているのですが、今の話で質問はありますか? なければ終わりにします。今日は貴重な時間をありがとうございました。楽しいひとときを過ごすことができました。