資格・就職

HOME > 資格・就職 > キャリア・カフェ

仕事を「楽しむ。」 Jリーグクラブの仕事とは

日下部 諒 さん

株式会社湘南ベルマーレ Fan relation Unit


今回お招きしたのは、Jリーグの「湘南ベルマーレ」でスポンサー営業を中心にJリーグクラブの運営やマネジメント業務などに携わる日下部諒さんです。日下部さんは、高校生時代はベルマーレのユースチームに所属し、順天堂大学のサッカー部でもご活躍されました。大学卒業後は伊藤ハム株式会社を経て、株式会社湘南ベルマーレに転職し、プロスポーツビジネスに携わっています。司会進行は、芳地泰幸准教授が務めました。
<2019.11収録>

【芳地先生】
今日は、みなさんと同じ体育系の大学を卒業した日下部さんの学生時代の経験や、前職と現職で求められるスキルの違いなどを話してもらいます。日下部さん、よろしくお願いします。

自分の心の声に耳を傾け、「好きなこと」を仕事に

湘南ベルマーレの日下部です。年齢は31歳です。芳地先生は大学時代の研究室の先輩で、僕が大学4年生のときには、当時大学院生であった芳地先生から卒業論文のアドバイスなどをいただいていました。そんな僕の大学生活は、1・2年生の時はJリーガーを目指してサッカーに没頭していました。「勉強しないと丸刈り」というサッカー部のルールがあったので、勉強も一生懸命しました。ただ、12分間で走る目標距離が設定されていたサッカー部の「クーパー走」では目標に到達できず、結局は丸刈りになりました。こうして1年生のときは丸刈りになり、2年生以降は長くなった髪の毛とともにサッカーと勉強に明け暮れる毎日でした。

将来を考え始めたのは、3年生になってからです。教職課程を履修して、保健体育の教員免許は取得しましたが、実は当初から教員になる気はなく、既に3年生の秋には企業への就職を考えていました。教育実習にも行きましたが、「やはり違うな」というのが率直な感想でした。それまでずっと学校という組織と、サッカーチームという組織の中で育ってきたので、「外に出ないとまずい」と思いました。学校の先生になったら、また学校という組織に組み込まれるからです。だから、一般企業に入ろうと思ったのです。

サッカー選手という夢もありましたが、「J1には行けない。J2以下のカテゴリーなら滑り込んでもがくことはできるかもしれないけど、長年やっていく自信まではない」というのが当時の率直な思い。実力が足りないことは自覚していたので、就職活動に集中しました。

もちろん当時は悩みに悩みました。就職活動に専念しようと、「サッカー部を辞めます」と先輩に言ったこともあります。すると、クールな印象だった先輩が、すごい熱量で「絶対にやめるな」と言ってくれて、涙が出るほど嬉しかったことを覚えています。結果的には休部という選択をして、3年次の冬から、4年次の初夏、内定が出て教育実習が終わるまではサッカー部を休みました。ですから、もし今、部活をやめようかと思っている人がいたら、先輩や友だち、家族、先生やキャリアセンターのスタッフなど、色々な人たちに話を聞いて、自分が今やるべきことを判断してほしいと思います。

僕はそんな葛藤を経て伊藤ハム(株)に入社して、輸入食肉の営業を担当しました。2年目になるとサッカー界に行きたいと思い始めましたが、「3年間はひとつの会社で頑張れ」と、多く人に言われました。ただ、3年目になっても気持ちは変わらず、2014年4月に転職して(株)湘南ベルマーレに入りました。

端的に言うと、僕は「自分がどうやって生きていきたいのか」について、自分自身の心の声と対話をした上で、好きなことを仕事にした人間だと思います。みなさんもこれから様々な選択肢が出てくると思いますので、僕の話が何かヒントになればと思います。

11270019.jpg

広告収入を軸にクラブを運営

まずは、湘南ベルマーレの紹介をさせてください。ベルマーレは、この約20年間、J1とJ2を行き来してきました。ホームスタジアムは、神奈川県平塚市の「湘南BMWスタジアム平塚」です。収容人数は、おそらくJ1で最も少ない15,380人です。

この平塚市を筆頭に、神奈川県の9市11町がベルマーレのホームタウンです。神奈川県には横浜F・マリノスなどの有名チームもありますが、Jリーグには紳士協定があり、他チームのホームタウンではサッカー教室やチラシ配りなどが基本できません。Jリーグは、地域に根ざし、地域と連携してクラブを作ろうという理念を大切にしているからです。

ベルマーレの営業収益は年間約25億円です。2018年度のデータで他チームと比較すると、ヴィッセル神戸が約96億円、熱烈なサポーターがいる浦和レッズが約75億円で、J1の平均は約50億円ですので、ベルマーレはその約半分です。ヴィッセル神戸の楽天や、横浜F・マリノスの日産のような大きな親会社がベルマーレにはいないことも要因です。また、グッズの売上や、放映権を買った企業からの分配金、選手の移籍金なども運営の大切な資金になりますが、ベルマーレの最も大きな収入源は、全513社のスポンサー・協賛企業からの広告収入で、売上の45%を占めています。僕も入社して4年間はスポンサー営業を担当し、前職で鍛えた営業力を、大好きなサッカーの舞台で生かしました。

現在担当しているのは、入場料収入、つまりチケットの売上金額を増やす業務です。例えば、試合を間近で見られる「暴れん坊シート」や、ベンチの近くで試合が見られる「超暴れん坊シート」などもあります。いかに多くのお客様に来てもらい、入場料収入を最大化できるかを常に考えています。

将来の可能性は、多彩に広がっていく

こうしたスポンサー営業や、チケットの企画業務を行う社員は「フロントスタッフ」と呼ばれ、業務内容は大きく6つに分けられます。おそらく多くのチームに共通している業務内容だと思います。

1.メディア
いわゆる広報職です。選手への取材を行う記者への対応や、ホームページやSNSの更新などが主な業務内容です。

2.プロモーション
イベントなどを企画し、お客様に「また来たい」と思ってもらえる仕掛けをすることがミッション。オフィシャルグッズの販売促進策なども考えます。

3.セールス
スタジアム内などに広告として企業名を掲載してもらう契約のほか、例えば「ニチジョサッカー教室を開催! ベルマーレの選手が直接指導」といった謳い文句でサッカー教室を開催し、この場合なら広告主であるニチジョのイメージアップにつなげるような契約もあります。「ベルマーレ」という名称を活用して成果を生んでもらうための工夫と提案を行うのです。

4.フットボール
これはサッカーチーム独自のものです。各試合での選手の走行距離や、ボール奪取率などからチームへの貢献度を算出して、契約に反映させる業務のほか、全国・全世界でのスカウティング、トークショーのように所属選手が参加するイベントに向けた調整なども担当します。

5.ファンリレーション
今まさに僕が担当している業務です。入場料収入の増加に向けて「暴れん坊シート」などの「商品」を企画するほか、法人向けに年間チケットの営業なども行います。また、「ベルマーレの12番目の選手」を意味する「ベル12」というファンクラブがあり、この会員向けに「3500円でチケット2枚」といった特典の企画にも取り組んでいます。Jリーグでは年間で約20試合ありますが、1試合ずつ収容率を上げて売り上げを最大化することが、クラブの成長につながります。多くのサポーターの声援があってこそ選手の士気が高まり、その結果順位が上がれば地域の方が喜んでくれて、子どもたちにも夢を与えられる。これが理想的なサイクルです。

6.アドミニストレーション
総務、人事、経理業務です。実は最近、僕と同じ大学出身の女性が転職で入社し、経理部に配属されました。「なんで体育系の大学を出て経理なの?」と聞いたところ、「自分でもよくわかりません」とのことでした。ただ、日商簿記の資格を取得していて、人生の選択肢は自分で広げられるのだと彼女からも教わった気がします。ですから、みなさんにとって今現在は無関係に思えるような職種でも、将来の選択肢に入ってくる可能性は十分にあるということです。

11270021.jpg

国境を越えて子どもを笑顔にできるスポーツの力

最近の取り組みとして最も紹介したいのが、ベルマーレの「希望のボール&ユニ プロジェクト」です。サポーターのみなさまに、もう着ないレプリカユニフォームや応援ジャージ、ボールの寄付をお願いするもので、2019年の夏には約380枚のユニフォームと約120個のボールが集まりました。そして10月にインドネシアのスラウェシ島を訪れ、現地の子どもたちに直接届けてきました。ここは、地震による津波や液状化現象で親を失ったり、家をなくしてしまった子どもが多い地域です。少なからず心に傷を負った子どもたちに、少しでも笑顔を届けたいという活動のコンセプトのとおり、現地では多くの笑顔に接することができました。

子どもたちはワクワクした顔でユニフォームを着てくれて、飛びっきりの笑顔でサッカー教室に参加してくれました。少なからず喜んでもらえたと思いますし、これがスポーツの力だとあらためて感じました。自分が携わっている仕事でこれだけ多くの人が喜んでくれることはとても価値があるし、今後に向けたモチベーションにもつながっています。僕自身、仕事を通して豊かな気持ちになれたことが本当に嬉しかったです。

<質疑応答>

~~ 現在の業務内容について ~~

【質問】
「暴れん坊シート」以外には、入場料収入を増やすためにどんな取り組みをしていますか?また、「暴れん坊シート」や「超暴れん坊シート」は、ファンクラブ会員限定ですか?

【日下部さん】
まず、ベルマーレのファン層は、チケットのコンビニ購入率が圧倒的に高い点が特徴です。そこで僕たちは今、ネット購入への誘導を強化しています。なぜなら、お客様の年齢や性別、チケット購入頻度などの情報が、ネット経由なら一目瞭然だからです。そうなれば、初めての来場者に「今回は初めての応援、ありがとうございました」というメールを送れます。さらに、そのメールに「2回目は千円引きになります」といった特典内容を書けばリピート促進にもつながります。お客様の情報を集め、それを活用したいのです。

次に、正式名称は「暴れん坊シートNEO」と「超暴れん坊シート」、略して「超暴(ちょうあば)」ですが、どちらもファンクラブ会員以外の方でも購入できます。ただし、会員と非会員では購入価格に違いがあって、今年(2019年)から非会員向けにのみ、価格変動制を導入しました。専用ソフトが、多様な条件をもとに購入価格を1日ずつ決定する「ダイナミックプライシング」と呼ばれるものです。

理由は、売り上げを最大化するためです。安くなる試合もありますが、そもそも席数が少ないので、ほとんどの試合が高くなります。特に人気のある試合では値段が上がり、購入意欲を低下させてしまうデメリットがあることも確かです。そこで、何としても空席を出したくない試合では、ソフトが出した価格を無視して安くすることもあります。ただ、安くしても高いままでも売れる枚数は変わらないというケースもあります。

【質問】
今の仕事で、過去のプレイヤーとしての経験が役立ったことはありますか?

【日下部さん】
あります。お客様にサッカーのことを語れます。商談の際に、チームの戦術や監督の采配が話題になることもあるのですが、そういう時に「僕はこう思いました」という意見をきちんと言えることは、ひとつの強みだと思います。自分が届かなかった世界で何年も現役を続ける選手への尊敬も大きいので、選手たちの価値をきちんと発信できる点にも、プレイヤー経験が生きています。

【質問】
日下部さんが考えるスポーツの魅力はなんですか?

【日下部さん】
僕は今の会社に入って、以前よりもスポーツが好きになりました。よく衣食住に関わる仕事は重要だと言われますが、衣食住だけでは満たされない人間の欲は確実にあると思います。人が一生懸命に走っている姿に人は感動すると思いますし、スポーツだけにしかない力によって、涙を流したり鳥肌が立つほどの感動を与えることができるからです。

また、前職での同期社員に、大学時代に陸上部で個人競技に打ち込んでいた男性がいました。彼は何か壁にぶつかると、すぐには人に聞かず、黙々と自分の課題を整理して解決しようと努力していました。一方で、サッカー部出身の僕は不明点はすぐに聞きます。集団スポーツの良さはコミュニケーション能力だったり、みんなでひとつの目標を達成するプロセスに魅力がありますが、じっくりと自分自身に向き合う個人競技の魅力を、彼の背中が教えてくれました。ですから、種目を問わず、みなさんのようにスポーツに打ち込むことで、自身の成長につながるというスポーツの魅力があると思います。

11270162.jpg

~~ 学生時代の就職活動について ~~

【質問】
私は自分からスポーツがなくなったら何をしたいのかが全然わかりません。就職活動では、まずは自己分析と言われますが、具体的な自己分析の方法や、就職活動で最初に取り組んだことを教えてください。

【日下部さん】
僕もサッカーや学校という環境以外で仕事をするイメージが湧かなかったし、サッカーをやめた後の自分の価値は見えませんでした。そこで、僕はやりたいことを絞り出すのではなく、やりたくないことを削っていきました。「つまらなそう」とか「この会社の人とはうまく付き合えなさそうだからエントリーしない」といった消去法でもいいと思います。そうやって削ることで時間を有効に使えます。そのうちに「この企業は素敵だ」とか「この企業の商品は魅力的だ」という気持ちになってきて、自分にできるかわからなくても、エントリ―してみようかなというワクワク感が芽生えていきました。

【質問】
スポーツ団体の職員になりたいのですが、今からどんな準備をすればいいですか? 人脈もないと厳しいでしょうか? また、ベルマーレは正社員の定期採用をしていますか?

【日下部さん】
まずは、インターンシップなどに参加して、必要なスキルを肌で感じる経験ができればと思います。スキルは無限にありますが、何を選ぶのかは自分次第です。例えばスポーツでの国際交流を活性化するために英語を勉強しようとか、アジアにスポンサーの枠を広げるために中国語を習得しようとか、広報がしたいからSNSの活用方法を勉強しようとか、それらを主体的にやりたいと思えるかどうかが重要です。ただ、今すぐに即戦力といえるスキルがなくても、追いつくことはできます。僕自身、今の会社でも必死に勉強しました。自分が何をしたいかを明確にすることで、最初の一歩は見えてくると思います。

なお、ベルマーレでは定期採用は行っていませんが、もちろん人材を求めているクラブもあります。人脈がなくても、求人を出しているチームを探してアプローチする方法もあります。人脈がなければつくればいいとも思います。例えば、先生や部活動の監督やコーチに「サッカー界で誰か知っている人いませんか?」と聞いてみるのもいいと思います。

【質問】
就活では何を自分の強みにしてアピールしたのでしょうか?

【日下部さん】
「人間関係で相手の懐に入りやすい」「コミュニケーション能力が高い」とアピールしましたが、そんな人はたくさんいますし、それが多くの企業で不採用になった原因だと思います。思い出すと恥ずかしく、後悔もしていますが、当時は企業研究や自己研究が不十分でした。一貫性なく幅広い業種・業界にエントリーしたのは、何がいいのかわからないくらい世間知らずだったからです。それでも、「数打ちゃ当たる」ではないのですが、「自分と合う企業があるはず!」と信じて多くの企業の説明会に行ったので、それは成果につながったと思います。今となっては正解はわかりませんが、もっと企業を絞って対策していれば、また違った就活になったかもしれません。

僕が言いたいのは、やはり好きなことを仕事にしてほしいということです。自分が好きなことや自分がしたいことを考えて、「なぜこの会社に入りたいのか」「なぜこの業界に入りたいのか」が明確になれば、効果的で一貫性のある自己PRや志望動機につながると思います。

11270173.jpg

~~ 社会人になってからの転職について ~~

【質問】
転職前に「3年は働け」と言われたとのことですが、なぜ3年なのでしょうか?

【日下部さん】
お客様のことや業務の深い部分の流れなど、1・2年では見えないものが3年経てば見えてくると一般的に言われています。2年と3年で何が違うのかといったら、それはわかりませんが、その会社での実績や収穫を、自信を持って語れるかどうかが、3年と2年の違いかもしれません。ですから、2年でも力をつけて次に行けるなら行けばいいと思いますが、僕はそこまで自信がなかったこともあって、もう1年やろうと思いました。

【質問】
「好きなことを仕事にする」という点で、前職での3年間がそう思わせたのか、今の仕事に就くために前職でチャンスを狙っていたのか、どちらでしょうか。また、2社を経験したからこそ感じることを教えてください。

【日下部さん】
前職では、自分では100%の力で営業活動に臨んでも、どこか受け身で"やらされて"いる感覚もあって、取引先に対して作り笑顔をしている自分もいました。でも、もし自分が好きなサッカー業界での営業だったら、心からの笑顔で楽しみながら仕事ができのではないかと思いました。

転職して感じたのは、自分が力をつけながら課題を解決して、会社をよくするという流れは同じということです。ただ、前職での経験があったからこそ現在生かせていることもありますが、自分が会社に与える影響は、社員が少なくて業務量が多い現在の方が大きいことは確かです。

小さい会社だからこそできることや、自分がアクションを起こせば変えられることもあります。小さい組織だからこそ、成長の速度の高まりも実感できます。現在は25人しかいない会社で業務量は多いですが、好きなサッカーに関われるので100%以上の情熱が出ますし、チームの勝敗で一喜一憂しながら、試合に勝てば年齢問わず社員と抱き合って喜ぶこともあります。僕より年上の先輩社員はとてもエネルギッシュで、「俺はこのチームがめっちゃ大好きだ」と恥ずかしがらずに言うんです。そんな組織の空気や、夢を語れる大人が周りにいる環境が大事だと思うので、ベルマーレに来て本当によかったと思っています。

11270232.jpg

対象者別メニュー
サイト内検索