資格・就職
教員生活を経て児童書専門店をオープン
奥山 恵さん
■児童書専門店Huckleberry Books店長
本日のお客様は、児童書専門店Huckleberry Books店長の奥山恵さんです。書店経営に加えて、児童文学評論家と白百合女子大学・共立女子大学ほかでの非常勤講師をされています。奥山さんは千葉大学大学院教育学研究科修了後、都立高校での教員生活を経て、2010年に千葉県柏市で児童書専門店Huckleberry Booksをオープンしました。教員時代のご経験や起業の道のりから、個人店の意義や絵本・児童文学の魅力まで、幅広くお話しいただきました。
<2018.01収録>
今日はよろしくお願いします。私は「Huckleberry Books」という児童書専門店を経営しています。お店を紹介するスライドをまとめてきましたので、まずはどんなお店かを知っていただきたいと思います。
赤ちゃんから大人まで楽しめる本を
私のお店は千葉県の柏市にあります。JR常磐線で上野駅から30分くらい、東京メトロ千代田線でも東京駅から30分くらいです。地方都市で、駅前には結構人がいます。柏駅の東口を出て商店街を抜け、7〜8分くらい歩いたところにある一軒家が私の店です。
今から10年くらい前に店を開くことを決心して、土地を買って建物を建て、植木を植え、本棚や看板を父に作ってもらいました。2010年の3月に教員を辞め、その年の10月に店を開店。半年くらい準備をしたり、たんぽぽ館という本屋さんで修行をしたりしてからオープンしました。
店のコンセプトは「赤ちゃんから大人まで楽しめる本と雑貨」です。本との付き合い方を意識して、本を並べています。例えば、「本を味わう」というテーマで、絵本や写真集などビジュアル的な本を集めたり、「本と遊ぶ」というテーマで、飛び出す絵本や迷路の本を集めて、本の楽しさを知ってもらえるようにしています。大人向けには、私自身も好きな、料理やガーデニングの本など暮らしに役立つ本を置いています。物語なら、現実を描いたような作品のコーナーや、ファンタジーなど空想を広げる本のコーナーもあります。そのほか、困ったときに本を開くことも大切なので、「本と生きる」というテーマで、社会的な本や雑誌も並べています。ミニ本や雑貨など、本と一緒にプレゼントしてほしいものも置いています。季節によって本を入れ替えていて、作家特集やクリスマス特集、言葉遊び特集なども開催しています。
お店は2階建てで、2階はイベントスペースのような使い方をしています。原画展や作家さんのトークイベント、サイン会、赤ちゃんのおはなし会、夜のおはなし会、文学茶話会、絵本と生け花の展示、カフェ、音楽会などを開催。スペースレンタルとして場所を貸し出す形で、専門の人が来てこれらのイベントを開催してくれており、いろいろな人と出会える場にしています。
実は私の家ではフクロウを飼っています。そのフクロウの「フーちゃん」も週に1回くらい店にいます。開店した年に生まれたフクロウで、今はだいぶ大きくなって、店のアイドルになりました。ただ、怖がりなので、大声を出されるのは苦手です。書店の経営はなかなか厳しい現状がありますが、それでも7年間続けてきました。ホームページもありますので、チェックしていただければと思います。
児童文学との出会いと教員生活
大学は教育学部に通っていました。児童文学を読み始めたのは、小学校の教員を目指していたからです。子どもの頃は本をたくさん読む人ではなかったのですが、大学の時に児童文学の面白さを知って、好きになりました。当時好きだった本は、『影との戦い』。アニメにもなった『ゲド戦記』のシリーズです。アメリカのファンタジーで、ゲドという青年が主人公です。生まれつき魔法の力が強く、自分の力を過信して使ってはいけない魔法を使い、"影"を呼び出してしまいます。その影と戦う話なのですが、魔法の学校で友達と出会ったり、師匠がいたりするという青春小説のような内容になっています。最初は、ゲドは自分が呼び出してしまった影に追われているのですが、故郷に戻った時に、師匠から「影から逃げていてはダメだ。影に向き直れ」と言われるんです。それからゲドは自分が影を追う立場になり、最後に影との決着をつけます。人間が子どもから大人になる時に、自分の中の影というか、"おごり"や"うぬぼれ"から生み出してしまったものと、どう決着をつけるかがテーマになっています。これから社会に出ていくこと、大人になることを考えていた大学生の頃にこの本を読んで、影との決着の付け方にすごく感動しました。児童文学が深くて面白いと思ったきっかけです。
あとは『クローディアの秘密』という本も好きでした。クローディアという女の子が自分の生き方や生活でうまくいかないことがあり、アメリカのメトロポリタン美術館に家出するんです。そこで、ある美術品の秘密を探ります。ちょうど大学生くらいで、自分の生き方を考えている時にこの本に出会ったので、児童文学は、人間が秘密を持つということも含めて、人がどう生きていくか、これからどう変わっていくかをテーマにしているのだなと思いました。それから児童文学に興味を持って学び始め、大学院に進学して、更に勉強しました。私は物語を書くよりは解釈をする方が楽しかったので評論を研究していて、いろいろな研究会に参加しました。
教員になってからは、児童文学に書かれている内容が生徒を理解することに役立つと身をもって知り、ますます大切さを実感しました。13歳〜19歳くらいの子どもたちに最適と言われている「YA文学(ヤングアダルト文学)」というジャンルがあります。今日は「ビッグイシュー ジャパン」という雑誌に私がおすすめのYA文学を紹介した記事を持ってきましたので、そこから紹介します。
例えば、『精霊の守り人』はNHKでドラマを放送していますよね。世の中や、人が人を守るとはどういうことなのかが、とても大きなスケールで書かれているファンタジー作品です。『祈祷師の娘』『園芸少年』『オン・ザ・ライン』はリアルな物語で、学校の中のいじめや上手くいかないことの背景にある家族の問題などが書かれています。『ペーターという名のオオカミ』は、ドイツを舞台にした社会の話、『鉄のしぶきがはねる』は工業高校の話、『全ては平和のために』は戦争を舞台にした話です。こういう作品を読むことで、目の前にいる生徒さんの背景を想像するのに役立ちました。学校という場、社会構造、戦争についても児童文学を読みながら考えました。そうやって、教員生活をしながら、児童文学の研究や評論を20年くらいしていました。
「人生の3本の柱」を考えて本屋を開店
なぜ本屋をやろうかと思ったかという話をします。私が大学生くらいの頃に、落合恵子さんが青山でクレヨンハウスという本屋さんをオープンしました。当時、渋谷には童話屋さんというお店があり、児童書専門店がたくさんあったのです。大学のそばにも小さい本屋さんがあり、私はそういうお店に通って「いいな」と思っていました。「いつか本屋さんをやりたい」という、漠然とした気持ちはずっと持っていたのですが、すぐにはできないので、教員生活を20年くらい続けていました。
本屋さんをやってみようと思った時に考えたのが「人生の3つの柱」です。教員を辞めるのは大きな決断なので、納得できないと思いきれませんでした。「3つの柱」の1つ目は「創造」です。生きている限り何かを表現したいという欲求があると思います。音楽、スポーツ、芸術と何でもいいのですが、私の場合は児童文学評論を書くことでした。それについては、教員を辞めても続けられますし、本屋さんが評論や研究の現場になると思いました。
2つ目が「生活」、3つ目は「社会との関わり」でした。教員という職業は、給料がもらえるので生活の基盤ができ、生徒を通して社会と関わることができるので、2つ目と3つ目の両方を叶えられる職業です。では本屋さんの場合、生活が成り立つのでしょうか。セミナーに行ったり本屋さんに聞いたりして調べると、本屋では食べていけないと分かりました。特にテナント料までは払えないと思ったので、長い目で見て、自分の店を建てることにしました。そして、本屋だけで食べていけなかったら、近所のバーミヤンで夜に働きながら本屋をやろうと思っていました。私にとって本屋は「社会との関わり」を満たすものだったのです。兼業すればできると覚悟して、教員を辞めて本屋を始めました。
お店を経営するということ
本屋さんの経営がどうなっているのかをお話しましょう。例えば、本を売ってお店に入る利益は2割です。1,000円の本なら200円。利益が2割というのは、世の中の仕事の中では薄利です。食べ物はロスがあるため、7割の利益が必要と言われますし、雑貨は4割、洋服は5割と言われます。なぜ本が低いかというと、本はお店に委託して置く商品で、売れなかったら返せるからです。本屋さんがリスクを負うわけではないから、利益も少ないということです。大きい本屋さんはどんどん本を並べて、売れなければ送り返しますが、うちの店では注文して本を並べています。買い取っているので返すことはできません。買い取りでも利益が委託と同じというのはおかしいのですが、そこは上手く変わっていかないところです。
今日は去年の決算書を持ってきました。もし自分で店を経営したいと考えている人がいたら、ぜひ簿記を勉強するといいと思います。私は商業高校で教えていたことがあるんです。私自身は国語の教員ですが、クラスの簿記が苦手な生徒を進級させるために一緒に勉強しているうちに興味を持ち、簿記3級を取得しました。簿記3級があれば、決算書を作る知識は一通りあります。決算を会計士さんにお任せしている人もいますが、私は自分の店の会計がわかっていないのはリスクだと考えているんです。今はコンピュータで簡単に帳簿がつけられるので、毎月どうなっているかを見て、赤字にしないように、仕入れを抑えるなどいろいろな工夫をしています。1年間が終わると、年間の決算を出します。年間の売上から仕入額、人件費などの費用を引いて算出します。
去年の売上が約570万円でした。月に分けると40〜50万円、1日なら1万円くらいの売上です。そこから仕入れの約370万円、光熱費や消耗品代などの費用約200万円を引くと、去年1年間の決算は約マイナス6万円です。ただし、建物が減価償却資産というものにあたります。建てる時に使ったお金は、老朽化することを踏まえて、私の店の場合は20年ほどに分けて減価償却費という経費として計上されるため、年間70万円くらいのお金が残ることになります。ただ、貯金はないため、20年経って店が老朽化しても、建て直すことはできないというレベルです。年間70万くらいの利益があるとしても、1ヶ月でのわたしの純粋な利益は4〜5万円程度。みなさんのバイト代よりも少ないと思います。本屋というのは基本的にそうやって成り立っているという話でした。
幸い、私は教員を辞めた時に、大学で週に1回くらい児童文学を教える授業を持つことができました。今も大学の講師の仕事や、文章を書いて原稿料をもらうことで、兼業しながら私自身は生活しています。
最近では、本屋さんがどんどん潰れています。インターネットで本が買える時代なので、成り立つのが難しいのです。しかし、ブックカフェや、ギャラリーと本屋など、本と何かを組み合わせた本屋さんが増えていると思うんですね。本と何かを組み合わせて一つの文化の場にして、利益的にも補いながらやっていくお店が増えていて、兼業している本屋は割と続いている印象があります。社会学者の上野千鶴子さんなどが書いている、女性の働き方についての本を読むと、今の時代は一つの仕事に就いたら安心という時代ではないのですよね。兼業的な視野を持っていることが、女性の生き方として大事だと書かれていました。私も店を始めてからそれを感じています。1つしか収入源がないと不安ですが、自分の中にいくつか窓口を持っていると、生き方に余裕が出る気がします。1つのことを極めるのも大事ですが、自分にとっての逃げ道をいくつか持っておくのも重要なことではないかと思います。
地域や社会と関わる本屋に
では、私の店がどういう形で社会と関わっているかを紹介します。一つは、本の良さを発信していくことです。教員だった頃も児童文学に助けられたので、本の良さを子どもだけではなく、大人にも知ってもらいたいと思っています。店の2階をイベントスペースにしていることで、イベントをして来てくれた方が次のイベントをしたり、また別のお客様が来てくれたりと、うちの2階で知り合いになった人がたくさんいるようになりました。それは良かったと思っています。
また、コミュニティ作りとして、「本まっち柏」という古本のフリーマーケットをしています。古本のフリーマーケットは全国で行われているので、柏でもやりたいということになり、有志で2012年に始めました。「柏で本のイベントをやっているね」と言われるように発信していきたいと思っています。秋には「Oak Walk」というイベントもしています。参加している個人店3店目ごとに、特典がもらえるというスタンプラリーです。個人店どうしでつながって、お互いの店をお客さんに紹介しようというもので、柏の街にいろいろな業種の店があると知ってもらうために開催しています。
こういった取り組みをしている理由には、柏という地域のつながりをもっと作りたいという思いがあります。うちの店がオープンした翌年の春に、東日本大震災が起きました。柏のあたりは停電したり、ホットスポットという放射線量が高くなる場所が出たりしました。その時に、小さい子を連れたお母さんが「行くところはないけれど、一人で家に居ても不安で仕方ない」と言って、うちの店に来て、本を見て、話をしていたことがあったのです。その時に、地域のお店というのは、ものを売るだけではなく、人と人とがつながる場所なのではないかと思いました。地域とつながっているお店があれば、何かあった時に話ができる場所になります。災害のあとに地域が壊されるという事例は世界的にもたくさんありますが、地域でつながりがあると、災害が起きた時にも強いのではないかと思います。
インターネットの本屋さんや大型書店もある中で、個人の本屋さんができることを考えると、「地域の本屋」になることだと思いました。また、専門の書店員がいるのも大きな違いです。ドイツなどは本屋になるには専門学校で学ぶ必要がありますが、日本は特に資格も必要ありません。私は児童文学の専門家なので、私が読んで本当に良いと思った本しか置かないことを、うちの店の売りにしています。お客さんに「こういう本ありますか?」と聞かれた時に答えられるのが、チェーン店とは違うところです。
また、本の実物を手にとって見られることも、ネット書店にはない本屋の魅力です。児童文学は文章が中心の本が多いですが、絵本などは実物を見ないと質感や本の感じが分かりません。実物が見られる場所としての本屋は大切ですし、特に絵本は一つの総合アートです。文章を書く人がいて、絵を描く人がいて、デザインする人がいて、一冊の本ができています。それを実感して欲しいという気持ちもあります。
おすすめの絵本と児童文学を紹介
それでは、最近の子どもの本をいくつか紹介したいと思います。私は児童文学が専門だったので、読み物のコーナーはいくらでも選書できる自信がありましたが、絵本はお客さんの方が詳しいこともあり、店を始めてから一生懸命勉強しました。ちなみに、売れるのは圧倒的に絵本です。プレゼントなどにも使われますし、赤ちゃん絵本から大人向けまであって、絵本は一つのメディアになっています。
『ぐりとぐら』は、読んだことがありますかね?戦後の初期の絵本です。昔の絵本は物語が先にあり、物語を読む助けとして絵がありました。幼児が読む時に、理解するための一つの助けとして絵があったのです。最近は絵本の世界が進化していて、大人まで絵本を楽しむようになっています。近年流行っているのは『ぴょーん』などの赤ちゃん絵本です。絵を見ながら「子猫がこっち見てるよ」「おへそがあるね」と、読んでいる人が話しかけることができます。絵本を真ん中に置いて0歳児とコミュニケーションを取れるのです。これは、保育の場でも赤ちゃんの頃から使えると感じています。以前、0歳の子どもとのコミュニケーションの取り方がわからないというお父さんがお店にいらしたことがありました。そこでこの本を紹介したところ、後日、コミュニケーションが取れるようになったとうれしそうに報告してくれました。
『バムとケロ』のシリーズは知っていますか? これも中心となる物語がある絵本です。バムという犬と、ケロというカエルが一緒に暮らして、一緒に遊びます。バムは包容力があり、ケロは勝手なことばかりしているというコンビもいいのですが、周りに小さい犬や三つの耳があるウサギなどが出てきて、物語と関係ないところでいろいろやっているんです。子どもはこの部分をすごく見ているんですね。今、絵本は文章と絵が融合して一つの物語という世界ができているので、絵の細かいところを見ていく面白さもあります。小学校の保健室に置いておくと、教室にいられない子が保健室に来て、『バムとケロ』を一生懸命読んでいるらしいんですよ。小さいものがごちゃごちゃ出ていて、どこから読んでもいいし、読んでいる人を肯定してくれるところもあるのだと思います。
最近とても人気があるのが、ヨシタケシンスケさんの絵本です。『りんごかもしれない』という本は、ある日、学校から帰るとテーブルの上にりんごがあったという日常の場面から始まるので、お話に入りやすくなっています。そこから「これはりんごじゃないのかもしれない」「大きなさくらんぼの一部かもしれない」「赤い魚が丸まっているのかもしれない」と、りんごではないとしたら、何なのかを妄想していきます。このりんごは「帽子が欲しいんじゃないか」「本当は梨になりたかったんじゃないか」といった妄想をするところが、すごく面白いです。最後は、「もしかしたら普通のりんごかもしれない」ということで、お母さんに食べていいかを聞くという日常に戻って終わります。絵と話、文が融合して一つの世界を作っているんですね。ヨシタケシンスケさんはもともとイラストレーターで、小さい絵しか描けないので、かなり拡大して本にしているらしいんです。しかも色はブックデザイナーさんに任せています。
大人向けには、『はじまりの日』という絵本があります。これはボブ・ディランの「フォーエバー・ヤング」いう曲を絵本にしたものです。ボブ・ディランは2016年にノーベル平和賞を取って話題になりましたよね。彼が息子さんのために書いた曲です。アーサー・ビナードさんの訳で日本語になっていて、曲に合わせてページをめくれる感じになっています。ちょうどボブ・ディランが曲を作っていた時代のものが絵の中にいろいろ書き込まれていて、それがすごく面白いんです。私が好きなのは、ボブ・ディランの子ども部屋が描かれたページ。本棚に、アメリカ文学の代表的な作品である『ハックルベリー・フィンの冒険』の本が入っているんですよ。私の店の名前もこの本から取りました。ボブ・ディランも子どもの頃にハックルベリー・フィンを読んだと書かれている感じがして、気に入っています。細かい絵がひとつひとつ意味がある作品です。
今、絵本の力がすごく児童文学の中で大きくなっていて、私も店を始めてから改めて絵本が面白いと思うようになりました。そうは言っても、絵本にできることと物語にできることは違うと思います。うちの店で力を入れているのは、幼年童話と言われる本です。『ふたりはともだち』を知っていますか?がまくんとかえるくんの話で、教科書に「おてがみ」という話が載っていますよね。文章が中心ですが、挿絵もあります。こういった、絵本から読み物に入っていく本が結構出ています。
がまくんとかえるくんは古典的な名作ですが、最近はもう少し読みやすい本が出ています。『いぬうえくんがやってきた』は、小学校1年生くらいの子が読むのにすごくいいです。イヌの「いぬうえくん」と、クマの「くまざわくん」が一緒に暮らし始める話です。途中でいざこざがあって上手くいかなくなったりしても、最後は仲直りします。絵本ではあまり書かれていない人間関係のことを、ある程度長さのある物語の中で読んでいくことができます。
『天使のかいかた』も、文章が結構あります。小学校1〜3年生くらいが読む本で、女の子が天使を飼う話です。女の子は天使の力を使いながら毎日生活するのですが、ある時女の子のところに転校生がやってきて、仲良くしたいのに自分も悪口を言ってしまいます。それを天使との会話の中で、「やっぱり自分は転校生の子が好きだから友達になろう」と考えるんです。今は小学生も学校の中で悩んでいるので、悩んだ時に本から人間関係を知ることができます。難しくないし、絵もたくさんあって楽しく読めるんです。そういう幼年童話が増えているので、小学校1年生くらいで出会ってもらいたいですね。その頃に物語を好きになってもらえると、小学校5〜6年ではどんどん読めるようになります。次にYA文学の方に行って、中高生になるまでに、いろいろな本に出会えればいいと思いますし、その入口として、幼年童話は面白いと思っています。
よく小学生のお母さんが来て、「うちの子は本を読まないのですが、どうしたらいいんでしょうか」と言われます。そういう時に私は「まずはお母さんが読んで下さい」と言うんです。お母さんが読んで面白かった本をさり気なく置いておけば、多分読みますよということです。意外と大人も本を読んでいないということがあるのですが、大人が面白い本を読めば子どもは自然と本を好きになる感じがします。「悩んだ時に本に戻る」といった力が本にはあると思うので、人生の一つのツールとして、身近に本があって、何かの時に思い出してもらえるといいなと思いながら、今の店をやっています。
学生A:本屋さんに学生は来ますか?
高校生くらいなら、来る子は来ますね。ただ、最近はどこも街が危ないということもあり、小学生くらいの子どもだけで来ることはあまりなくて、親と一緒に来ています。お客さんで一番多いのが、おじいちゃんおばあちゃん世代。「孫に本をあげたい」「孫が不登校で困っている」という相談をされます。あとは、赤ちゃんの頃から来てくれている子は、小学生になっても年に何回か来てくれています。店を始めた頃に0歳だった子が、今は小学校1年生くらいになっているので、年齢に合わせた本を勧めていますね。あとは、2階でイベントをやると、高校生や大学生が結構来てくれます。本は結構高いので、贅沢品だとは思うんですよ。一冊買うと一生モノだと思えば、そんなに高くないんですけどね。せっかくお金を出して買うので、うちの店では本としてもきれいな本、装丁のきれいな本やデザインの素敵な本を置いています。
学生:映画やマンガで感動するのはイメージできるのですが、文字だけでも感動できますか?
本は読み出すと面白いんです。最初は物語の世界になかなか入れなくても、ある時ぱっと入れることがあります。それを経験すると、本が好きになりますよ。『精霊の守り人』は何度読んでも泣いてしまいますし、少し古い作品ですが、『ゲド戦記』も大学の授業で読んでもらうと、みなさん「読んで良かった」と言いますね。私は中高生の頃は部活ばかりやっていました。高校3年くらいで部活を辞めて、人間関係もうまくいかなかった頃に、ふと太宰治の『人間失格』を読み始めたのです。自分の中でモヤモヤしたものがあるときに、本を読むと自分の中で違う感覚が得られると気づきました。映画もいいですし、マンガも良い作品がたくさんあると思うのですが、本は自分のペースで読めるし、場面を自分勝手に想像できる部分もあります。『ゲド戦記』も、主人公のゲドの姿は私の中ではイメージして読んでいるのですが、アメリカ版の原作の表紙を見たら、少しインディアン風だったんですよ。たしかによく読むと、ゲドは先住民的な褐色の肌って書かれていたのですが、自分の中では全然違う人として読んでいました。そういう読み方もいいと思います。子どもの本なので、本気で読めば2〜3時間で読み終わります。そんなに大変なものではないので、ぜひ読んでみてください。
学生:ありがとうございました。
Huckleberry Books
http://www.huckleberrybooks.jp/